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壜詰めの語り人─ラジオの時間

「いま、缶詰めなんだ」

締め切り間際に、あるいはしばしば締め切り後
僕たちがよく使う言葉。

メールや電話をくれた人に、
このところ頻繁に口にしている。

缶詰めとは、人を一定の場所に閉じ込めること。
仕事の促進や秘密保持のために行う。(大辞林)

缶切りを持って伺いましょうか」
啄木鳥(キツツキ)を送ります」

何人かの人が、そんな素敵な提案をしてくれた。
僕の大好きな人たちは、どう言えば僕が喜ぶか
くすぐりどころをよくご存知だ。

「気が利かなくてごめんなさい。そんなことなら、
缶切りを送って差し上げるべきでした」

そう返してきた女の子は、手書きのドラえもん
絵を送ってくれた。激励の吹き出し文字を添えて。

「語り人さん、お仕事がんばってくださいね!」

いえいえ、この状況にはドラえもんこそ適任です。
缶切りが必要ならドラえもんに頼めばいいのだし。

啄木鳥も秀逸でしたよ。啄木鳥といえば石川啄木
ちょうど啄木の世界にひたりたかったところです。
働けど働けどとつぶやき、じっと手を見たりして。

「啄木鳥さん、うまく缶を開けてくれるかしら」

きみはそう言って心配する。うーん、たしかに
啄木鳥にはちょっと過酷な労働かもしれないね。
ツツけどツツけど…缶が開かない!ってことに。

でも、ありがとう。うれしかった!

あれ、タイトルは缶詰めじゃなくて、壜詰めって?
そう、から壜、壜から缶へと移動するのだけれど、
壜(びん)って何だと思う?

壜はスタジオ、ガラス張りの収録ブースのこと。

先日、あるラジオ番組にゲストとして呼んでいただいた。
高層ビルの最上階、展望フロアにあるオープンスタジオ
ガラス越しに大勢の視線。僕は溶けてしまいそうだった。

美人パーソナリティからいろんな質問を投げかけられた。
僕には、エキセントリックな応答をしてしまう癖がある。
照れ隠しで、つい奇を衒った受け答えをしてしまうのだ。

反省と自戒を込めて、ここにいくつか再現してみよう。

Q.
なぜ、声のお仕事を?
A.
いろいろな人から「なぜ声の仕事をしないのか?」
そう言われて「ああ、そうなのか」って。
Q.
必ず持ち歩いているもの
A.
片手にピストル、こころに花束。
Q.
語り人さんのマイブームは?
A.
ブームというのはいきなり盛り上がって、
いつのまにかフェイドアウトしている現象のこと。
僕にその傾向はないし、その言葉を好きではない。
Q.
朝型か夜型か
A.
求められればいつなんどきでも対応できるように
日々鍛錬しているし、勝負パンツも常備している。
Q.
声優になりたい人にひとこと
A.
あきらめない才能も必要だけど、あきらめる勇気、
素早く方向転換する潔さ、見極めのよさも大切だ。
Q.
お仕事の告知をどうぞ
A.
ひそやかにやっていますので、とくにありません。
「あっ、この声はもしかして!」それで結構です。
Q.
「ユアボイス・マイボイス」も人気です
A.
プロでも食べていける人は3%にすぎない世界。
そんな声業界の厳しい現実を突き付けています。
Q.
そんな話はなかったと思いますが
A.
そうでしたか。では次はそれを書きましょう。
すみずみまで読んできてくれて、ありがとう。
Q.
語り人さんはその3%のおひとりですね
A.
そうでなければ、やっている意味がない。
趣味や道楽でやってるわけじゃないから。
Q.
ラブストーリーがステキです
A.
だったら、恋愛だけしていればいい。
Q.
語り人さん、わたしのことキライですか?
A.
まさか。あなたの声をはじめて聴いたときから、
むしろ好きにならないように必死で頑張ってる。
Q.
(笑)茂森愛由美ちゃんに頑張ったみたいに?
A.
じゃあ、頑張るのはもうやめましょうか。
Q.
頑張って耐えてるところが魅力なのかも
A.
我慢は美学といえば聞こえはいいけど、
ストイシズムはたんなる自己満足です。
Q.
ええかっこしいのやせ我慢?
A.
あなたのモデルの仕事もそうでしょ。ごめん。
負けそうなので、論点をずらしちゃいました。
Q.
他にも用意した質問があるんですけど…
A.
たとえば?
Q.
声の仕事をやってなかったら何をしてた?
A.
それから?
Q.
今後の目標は? 理想の未来像は?
A.
訊かないの?
Q.
こんな紋切り型の質問は、嫌いですよね
A.
あなたが本当に知りたいことを訊いてみて。
Q.
じゃあ、このあと、収録後のご予定は?
A.
たぶん、あなたと一杯やってると思う(笑)。

さっきの質問も、ついでだから答えちゃうね。
語り人じゃなかったら「歌い人」になってた。
今後の目標は「歌を作る」こと。どうかな?
Q.
ステキ!
A.
理想の未来像は、たぶんチェロを弾いている。
愛読書はプルーストの「失われた時を求めて」
傍らには愛するひと。ぼくが朗読してあげる。
Q.
ずっと聴いてたい!

Q.
では最後に、語り人さんのリクエスト曲を
A.
1970年の曲。全世界で1億枚のレコードセールスを
記録した永遠のベストソング。エルトン・ジョンの
「僕の歌は君の歌」
。(原題は「Your Song」)
Q.
「Your Song」、わたしも大好き!
A.
僕の贈り物は、僕が作ったこの歌。君にあげよう。
Q.
英語で言って
A.
My gift is my song and this one’s for you.
「Your Song」

そう言って僕は、みずから曲のキュー出しをした。
ゲストの身でありながらパーソナリティみたいに。

モデルとしても活躍するシンガーソングライター
Kさん。ごめんね。斜に構えた受け答えばかりして。
オーディエンスにジロジロ見られて緊張したのかも。

でも刺激的でワクワクしたとあなたは言ってくれた。

壜の外はもっと刺激的で楽しかったね! 僕たちは
息を吹き返した啄木鳥ようにいっぱいお喋りをした。
このトークをラジオでやるべきだったと大笑いした。

ドリンクがビールからワインに変わったところで、
料理の皿が焼き鳥からチーズに変わったところで、
僕たちのお喋りも、落ち着いたトーンに変わった。

「語り人さんに、今日はいっぱい教わりました」
「間違いなくあなたのファンの怒りを買ったね」
「そんなことない。さすがボイスのプロだって」

「あなたは歌ボイスのプロでしょ。しゃべりは」
「素人丸出し。表面的で紋切り型の質問ばかり」
「場合によるよ。そのほうが平和だったりする」

決め台詞と曲出しコメントはクールに決める
「ゲストに取られないようクールにカッコよく

「それから、歌うように語り、語るように歌う
語り人歌い人の合体だ。あなたならできる」
「ステキ!私今日こればっか。ほんと素人だわ」

「そんなあなたは無敵に素敵
「その決め台詞で歌を書いて」
「うん。僕の歌は君の歌だよ」
「うれしい。楽しみにしてる」

別れ際、僕たちは同士のような熱いハグを交わした。
また会う約束をして。次は君が僕の壜にやってくる。

壜詰めの分際である僕たちがしてはいけないこと、
それは「身も蓋もない」ストーリーを語ることだ。

もしもそこに愛という身が詰まっていなければ、
救いという蓋がなければ、語る意味などない。
生きてる意味もない。まったくね。

だから、そうだよKさん。
歌うように語ろう。語るように歌おう。

何を語るかなんて問題じゃない。
どんな声で語るか。それが重要。

あなたの声&ぼくの声で
ユアボイス&マイボイス

タイトルに結びつくうまいオチがついたところで
そろそろまとめましょう。ラジオの話にちなんで、
ラジオパーソナリティ風に。

えー、語り人の缶詰め&壜詰め生活は、
今のところ無期限でつづくでしょう。

引き続きあなたの缶切り栓抜きを、
啄木鳥ドラえもんを受け付けます。

お便りもくださいね。勝負パンツ
大丈夫。今のところ間に合ってます。

陣中見舞いに訪ねて行っていいかって?
勝負声勝負笑顔を持っていらっしゃい。

ビールとワイン、焼き鳥とチーズを用意して
待ってます。壜詰めレシピも考えておきます。

お別れの時間がきたようです。
壜から缶に移動しなければなりません。

もうすぐじめじめした季節がやってきます。
あなたが笑顔を絶やさないでいられるよう 
もともとの魅力的なあなたでいられるよう

語り人が魔法をかけて差し上げます。

ゆあん ゆよん ゆやゆよん
ゆあん ゆよん ゆやゆよん

それでは、刺激的で楽しい週末を。
お相手は、あなたの語り人でした。

 

今日のボイスメモ、あるいは、声にまつわるささやかな教訓

  1. 質問は相手が聞かれてうれしいこと、つまり相手が聞かれたがっていることから始めよう。まずは相手の心をほぐし、舌を滑らかにしてあげること。
  2. 立ち入った質問は、相手の反応を見ながら慎重に少しずつ掘り下げていく。
  3. 質問をするときはフランクにフレンドリーに。ただし礼儀正しくね。
  4. 質問の目的は相手の魅力を引き出してあげること。ときに本人も自覚していない魅力、隠れた魅力までも。
  5. 僕たちはもっと質問上手聞き上手であるべきだ。質問は相手への愛情表現だ。
  6. 「今日の名言」はこれ。何を語るかなんて問題じゃない。どんな声で語るか。歌うように語ろう。語るように歌おう。
  7. 「今日の名言」をもうひとつ。もしもそこに愛という身が詰まっていなければ、救いという蓋がなければ、語る意味などない。生きてる意味もない。

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