「岡本、おまえも一緒に来い」
「おれも大阪にか? なんでだ」
「おれたちの青春を書き直すんだ」
「大阪で青春を書き直す? どういう意味だ」
「この流れだ。少しは想像してみろ」
「まさか、飯倉奈都子が大阪にいるって話か?」
「ああ、あのときのままの飯倉奈都子がな」 続きを読む
過去からの贈り物(完)
過去からの贈り物(下)
20年ぶりに再会するその人は、間違いなく45歳になっているはずだった。なのに、僕は幻覚を見ているのか。その容姿も体型も、髪形も服装も、眩いばかりの精神の溌剌さも、もう何から何まで、僕の記憶に鮮明に焼き付いている、20年前の彼女そのままなのだ。
「語り人さん!」昔のままの澄んだ声で彼女は僕を呼んだ。
タイムスリップした人のように僕はうろたえた。 続きを読む
過去からの贈り物(中)
あらためて僕はこう言わなければならないだろう。
「頼むから、僕を自由にしないでくれ」
ひとりでいることが自由でないことくらい、
僕だって知っている。 続きを読む
過去からの贈り物(上)
絶賛連載中だった(?)「ジョージの伝言」6章を最後に消息不明になっていた語り人です。えっと、更新が昨年の8月だから、つまり半年近く僕は行方をくらましていたことになる。
続きを楽しみに待ってくれていたかた、そして借金取りみたいな催促のメッセージをくれたかた、ごめんなさい。正直に言います。語り人は居留守を使っていました。 続きを読む
第4話6章 きみは悪くない
「語り人、何やってるんだ!」
振り返ると、そこにいたのはジョージではなくニックだった。
「あんた、ひどい怪我をしてるじゃないか!
肩もやったな。とにかく診療所に行こう」
「だいじょうぶ。それよりどうした?」
「傷の手当てが先だ。歩けるか?」
「ニック、いいから話してくれ!」
「ジョージのことで知らせがあったぞ」 続きを読む
第4話5章 怒りの代償
「そのとおりだ。違わないよ。それにしても見事な演説だ!」と拍手をしながら言った。「語り人にはかなわないね。きみこそ、何でもお見通しってわけだ」
ジョージの顏を見たのは、それが最後だった。 続きを読む
第4話4章 言葉の力
大きくなった僕は、アメリカ人と喧嘩するどころかアメリカンガールに恋をして失恋して、そして今は変な米兵に弱みを見せまくり、やつといることに奇妙な安らぎさえ覚えるていたらくだ。そんな軟弱な息子を、父は天国から苦々しい思いで見ているのだろうか。 続きを読む
第4話3章 日本のアメリカ
それにしても、この黒人にしては華奢でハンサムな男は、いったい何者なのだ。僕の過去や現在が視えるとでもいうのか。「たしかに視えている」としかいいようのない事態に、僕はひどくうろたえた。 続きを読む
第4話2章 遠いアメリカ
「そんなに悲しいのは、本気で愛したからでしょ?」
「それ、どういう意味? 僕に言ってるの?」
「ほかに誰がいる。だいたい、きみが僕を呼んだんだよ」
「なに? 呼んだ覚えはないけど」
「じゃあ、きみが僕を求めた、と言い換えようか」
そう言うと男は、その無邪気な笑顔に真っ白な歯を添えた。
それがジョージとの最初の出会いだった。 続きを読む
第4話1章 米兵ジョージ
根岸森林公園──
ここでは観光ガイドしての僕の出番はない。ただひたすら歩くのみ。
しかし、ここにも語るべき物語はある。今回はここで起きた不思議な話をしよう。もっとはっきり言えば、これは語り人に起こった奇跡の物語だ。 続きを読む