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言葉のレストランへようこそ

先日、文化放送を訪れた。
僕にとって文化放送といえばやっぱり四谷だが、
2006年に浜松町に移転した。

ここはベイエリアで風通しがいい。
劇団四季もここにメインシアターを構えている。
たしかに幽霊が出ると噂された四谷の社屋より、
明るい未来を信じることができそうだ。

 今宵、言葉のレストランへようこそ!

ご招待を頂きこんなタイトルのコンサートに行ってきた。

案内役は、甘~い声の菅野詩朗アナ。
顔出しのため緊張したのか、めずらしくカミカミだった。
なまじ滑舌が良いだけに、余計に目立ってしまうんだよ。

僕でもきっと噛んでただろうな。そう思えるほどクサい
(失礼!)つまり抒情的なナレーションのオープニング

 鬼才・荒川洋治と文化放送のアナウンサーが贈る
     ジャックナイフ・ポエトリー

この副題が示すとおり、文化放送の局アナウンサーによる
朗読コンサート
といった趣向だった。

明治・大正・昭和の名作といわれる文学作品(小説)の一部を
四人のアナウンサーが朗読し、前後に作品と作者、時代背景
などの概説を、詩人の荒川洋治さんが挟んでいくという構成。

出不精の僕がこのコンサートに食指が動いた理由は2つある。

ひとつは、まず荒川洋治さんに会いたかったから。
ずっと荒川さんの言葉に注目してきた僕としては、
彼の生の語りを、ぜひとも聴いてみたかったのだ。

感想はたくさんあるけれど、ひと言でいえば、
荒川さんは実に豊かな人だった

終了後、関係者を介してご紹介いただく栄に浴した。
そこで僕は生意気にも、気になった2点を指摘させていただいた。

語りびと──
「なぜあそこで、言文一致という言葉をお使いにならなかったのですか?」
荒川さん──
「ああ! いま思い出しました。そう、言文一致だ。明治期のあたりは緊張していて、その言葉が出てこなかった。あなたは一番前に座っていらして、どうしてそのときにそっと教えてくださらなかったのですか」
語りびと──
「……(笑)」

 

語りびと──
村上春樹の『海辺のカフカ』が駄作だとおっしゃったのは、とてもあなたの言葉とは思えない。漱石や芥川の作品、すべてが傑作でしょうか。駄作と言ってはいけません。物書きとしてフェアでないと思います」
荒川さん──
「たしかに、そうでした。迂闊でした。では、あなたなら何と言いますか?」
語りびと──
「『海辺のカフカ』ですか? 小説が巧すぎる。くやしい!」
荒川さん──
「なるほど。その表現、使わせていただいてよろしいですか」
語りびと──
「……(笑)」

 

いうまでもなく、僕はもっと荒川洋治さんを好きになった

そうだ荒川さん、僕もひとつ大事なことを言い忘れました。
第五回「小林秀雄賞」受賞、おめでとうございます!

詩集ではH氏賞を始め大きな賞を総なめにしている荒川さんですが、
文芸評論の最高峰である本賞は、おそらく荒川さんが一番欲しかった
栄誉ではないでしょうか。受賞に相応しい素晴らしいお仕事でした!

 

そして理由の2つ目は、この機会に文化放送アナウンサー
の朗読力
をチェックしておくのも悪くないと思ったからだ。

僕はナレーターとして、オーディオ・ブックなどの朗読の
仕事
をしているが、朗読はいうまでもなく舞台でやるのと
スタジオでやるのとでは状況がまったく異なる

残念ながら僕は、舞台での朗読経験がない。
むかし「ゲーテの詩朗読コンテスト」に出場して入賞
したことがあるが、それは声を職業にする前のはなし。

 

ともかくプロとして舞台で朗読をする。観客の前で。
これをやらないことには、偉そうなことは言えないと
思っている。

スタジオ収録の朗読には、もちろん観客はいない。
出版社か制作会社の人が立ち会ったりはするけど、
基本的にブースの中で、ひとり黙々と読み進める。

そして生ではなくあくまでレコーディングだから、
噛んだり、間違ったり、表現が甘かったりすると、
リテイク(録り直し)が可能だ。

録音した音声はエンジニアにより編集作業が行われ、
必要に応じて必要な個所にジングルなどのBGMが
つけられる。これはこれでクオリティの面で朗読に
あたってのプロテクニック
というのがもちろんある。

特に収録は長丁場だから、長時間安定して読み通す
持久力
が要求される。その点舞台はパフォーマンス
時間が短いこともあって、一発勝負の瞬発力が求め
られる。その意味でフルマラソンと短距離走の違い
に似ている。筋力の使い方も集中力の質も違うのだ。

さて、文化放送アナウンサーの朗読はどうだったか
率直な感想を言えば、ひと言「予想どおり」だった。
予想どおりというのは「お上手」だったということ。

4月の雲ひとつない、どこまでも晴れ渡る空のように
滑舌はすこぶる良好。声はどこまでも澄み切っている。

しかし朗読は、とりわけ文学作品の朗読は
アナウンスでもインフォメーションでもない
業界風にいえば「ニュアンスがだいじなのよ
そう言えば、じゅうぶんだろうか。

でも、ベテラン野村邦丸アナの『楢山節考』は悪くなかった。
同じく、ベテラン野中直子アナの手紙朗読も味わいがあった。

 

朗読はやはり「年の功」なのかと、妙に納得したものである。
そう考えると、僕などまだまだひよっこと言わざるを得ない。

「安心した? 語り人さんのほうが一枚上手ね」
連れの声優仲間が隣で耳打ちした。
「そうか。終わったら生ビールをおごるよ」
「やったあ!」

でも、真に聴く者の心を打つ鳥肌ものの朗読は、
舞台俳優には到底敵わない。僕はそう思っている。

ふだん人前に顏を出さないラジオアナウンサーが、
観客の前でカミカミだったように、やはり顔出し
をしないナレーターの僕が、舞台で迫真の朗読
できるのだろうか。本当に僕のほうが上手なのか。

考えただけで緊張して喉がカラカラに乾いてきた。
まあいい。とりあえずビールだ。

今宵、言葉のレストランへようこそ!

そろそろ閉店の時間です。
またのお越しを、心よりお待ちしています。
お相手は、あなたの語り人でした。

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