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孤独と不安のレッスン

「つらいときこそ笑うのだ」

声優養成所の生徒のブログを覗くと、
こんな一文が目にとまった。

僕は知っているよ。
きみがだれよりも早く教室にやってきて、
ビルの非常階段で滑舌の練習をしていること。

課題のナレーションをノートに書き写して、
納得がいくまで何百回も読み込んでいること。

「やめちまえ」と叱られて教室を飛び出し、
非常階段で悔し泣きの練習をしていたこと。

周囲に馴染めなくて、自分に自信がなくて、
それでもいつも笑っていること。

僕は知っているよ。
だから、続きは僕に任せてくれないか。

みなさんも、以下の言葉を声に出して
歯切れよくリズミカルに読んでほしい。

では、いくよ。
はじめ!

雄々しくネコは生きるのだ
尾を振るのはもうやめなのだ
失敗おそれてならぬのだ
尻尾を振ってはならぬのだ
女々しくあってはならぬのだ
お目々を高く上げるのだ
凛とネコは暮らすのだ
リンと鳴る鈴は外すのだ
獅子を手本に進むのだ
シッシと追われちゃならぬのだ
お恵みなんぞは受けぬのだ
腕組みをしてそっぽ向くのだ
サンマのひらきがなんなのだ
サンマばかりがマンマじゃないのだ
のだのだのだともそうなのだ
それは断然そうなのだ
雄々しくネコは生きるのだ
ひとりでネコは生きるのだ
激しくネコは生きるのだ
堂々ネコは生きるのだ
きりりとネコは生きるのだ
なんとかかんとか生きるのだ
どうやらこうやら生きるのだ
しょうこりもなく生きるのだ
出たとこ勝負で生きるのだ
ちゃっかりぬけぬけ生きるのだ
破れかぶれで生きるのだ
いけしゃあしゃあと生きるのだ
めったやたらに生きるのだ
決して死んではならぬのだ
のだのだのだともそうなのだ
それは断然そうなのだ 

どうだった?
執拗な「のだ」のリフレインは
言いにくいやっかいな音だけど、
最後まで噛まずにつっかえずに、
なんとかかんとか読めたかな?

これは、僕が日々の滑舌レッスンに、
また自分を鼓舞するために音読する
井上ひさし「なのだソング」です。

ネコ」の部分を「ワタシ」に変えれば、
(「ボク」でも「オレ」でもいいですよ)
そのまま自分への「応援ソング」になる。

何度も何度も繰り返し、
お腹の底から大きな声で、
雄々しく堂々と読んでみて。

凛ときりりとお目々を高く上げ、
いけしゃあしゃあと読んでみて。

つっかえながらも元気よく、
出たとこ勝負で読んでみて。

滅多やたらに読んでみて。
性懲りもなく読んでみて。
破れかぶれで読んでみて。

「なのだソング」は語り人のボイスレッスン
のテキストであると同時に、つらいときこそ
笑うきみのための「孤独と不安のレッスン」
の主文であり、マントラ(真言)なのです。

これをきみがそらで読めたとき、
すらすらなんなく読めたとき、
お腹の底から読めたとき、

「孤独と不安のレッスン」は終了です。

きみにはもう、仲間がいる。

ひとりでいる孤独と不安嚙締めたきみには
ふたりでいる孤独と不安を味わったきみには
群衆のなかの孤独と不安を楽しめるきみには

リンとなる鈴に振り回されない
尻尾を振ることを潔しとしない
獅子を手本に進む仲間がいる。

サンマのひらきにそっぽを向き
お恵みなんぞは受けぬと高楊枝
を決め込む孤高の同士がいる。

いいか、よく聞け。

悔しさはちまちま泣いて晴らすな。
悔しさは溜めて溜めて溜め込んで、
ここぞという場面で一気に晴らせ。

だから、それまでは、

決してやめてはならぬのだ。
決して諦めてはならぬのだ。

のだのだのだともそうなのだ。
それは断然そうなのだ!

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