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	<title>声で人生が変わる！「愛と再生」のボイス・ストーリー　ユアボイス・マイボイス</title>
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	<description>あなたは自分の「声」が好きですか？ あなたは「声」で損をしていませんか？</description>
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		<title>過去からの贈り物（完）</title>
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		<pubDate>Tue, 12 Jul 2016 11:27:07 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[ボイスエッセイ]]></category>
		<category><![CDATA[かもめ]]></category>
		<category><![CDATA[チェーホフ]]></category>
		<category><![CDATA[喜劇]]></category>
		<category><![CDATA[海外赴任]]></category>

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		<description><![CDATA[「岡本、おまえも一緒に来い」 「おれも大阪にか？ なんでだ」 「おれたちの青春を書き直すんだ」 「大阪で青春を書き直す？ どういう意味だ」 「この流れだ。少しは想像してみろ」 「まさか、飯倉奈都子が大阪にいるって話か？」 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>「岡本、おまえも一緒に来い」<br />
「おれも大阪にか？ なんでだ」<br />
「おれたちの<b>青春を書き直す</b>んだ」<br />
「大阪で青春を書き直す？ どういう意味だ」<br />
「この流れだ。少しは想像してみろ」<br />
「まさか、<b>飯倉奈都子が大阪にいる</b>って話か？」<br />
「ああ、<b>あのときのままの飯倉奈都子</b>がな」<span id="more-615"></span></p>
<p><b>（</b><b><a href="http://kataribito.net/short/s0009/">過去からの贈り物（下）</a>のつづき）</b></p>
<p>岡本との話し合いは概ね、こちらの思惑どおりに運んだと思う。<br />
それにしても、<b>古巣の職場復帰</b>の話が出たときは驚いた。今さら会社人間に戻るつもりもないし、戻れるはずもない。またその器でもない。</p>
<p>岡本、おまえはおれを買いかぶっている。そもそもの始めから、おれは会社に骨を埋めるつもりなどなかった。自分が<b>組織に向かないタイプの人間</b>であることくらい知っている。だから岡本、おまえのせいじゃない。遅かれ早かれ、おれは辞めていたよ。</p>
<p>おまえのおかげで、おまえの嫉妬のおかげで、<b>おれは出世コースから外れ、絶妙なタイミングで、自然な流れで身を引くことができた</b>。そうでなければ仕事が面白くなっていたおれは、あのままずるずると会社に居続けたんじゃないかな。</p>
<p>そうだよ、岡本。あのとき<b>飯倉奈都子が姿を消した</b>のは、これもおまえのせいにするつもりはない。結局は<b>おれと奈都子の問題</b>だからだ。</p>
<p>あのとき奈都子は、<b>おれを追って赴任地にやってきた</b>。おれが呼び寄せたんじゃない。相談すれば反対されるに決まっている。だから彼女は奇襲作戦に出た。</p>
<p><b>予告なしの来訪</b>に絶句するおれを見て、奈都子はべそをかく子どもみたいなよるべない顔をした。そのくせ「来ちゃった」と言っておどけてみせた。</p>
<p>おまえもよく知っている、おれの<b>およそ栄転とはいえない、時期外れの、必然性のない海外赴任</b>。その原因の発端はそもそも自分にあると、奈都子は責任を感じていたんだ。</p>
<p>だからうちの<b>内定を手放し就職もあきらめ</b>、16時間かけて<b>海を渡っておれのところにやってきた</b>。ベッドルームがひとつしかない単身用の、お世辞にも快適とはいえない部屋。かつて一世紀以上も前に、<b>有名な画家がアトリエに使っていた</b>という触れ込みだけが自慢の、古色蒼然たるアパルトマンに。</p>
<p>もちろんおれは、<b>すぐに奈都子を日本へ帰すつもりだった</b>。</p>
<p>だが翌日、日本から彼女の大量の荷物が届いた。ほとんどが食品で、<b>保存がきく発酵食品や海藻類、乾麺や菓子類</b>などがぎっしり詰まっていた。それから相当数の<b>本と卒論のための資料</b>。「服は？」と訊くと「衣類はこっちで季節ごとに揃えるつもり」と笑った。</p>
<p>ああ、<b>長期滞在するつもりで奈都子はやってきた</b>んだ。</p>
<p>彼女の言い分はこうだった。卒業のための単位はすでに取っている。あとは八割がた出来ている卒論を仕上げるだけ。食事などの家事はちゃんとやる。だから、<b>どうか私を追い返さないでくれ</b>。</p>
<p>「就職は？」と訊くと「就職はしない」と奈都子は小声で、しかしきっぱりと答えた。<b>彼女はおれの赴任期間の一年を、ここで共に暮らすと決心してきた</b>のだ。どうして追い返すことなどできただろう。</p>
<p><b>飯倉奈都子と過ごした異国での日々</b>のあれこれを、ここでおまえにつらつら語るつもりはない。ただ、これだけは言っておく。岡本、おまえは誤算をしたよ。<b>奈都子とおれを引き離そうとしたことが、逆に奈都子とおれを離れがたくした</b>のだ。そんなおまえの誤算に、おれは感謝するべきかな。</p>
<p>だが、おれもまた誤算をした。<b>人生最大の誤算</b>を。</p>
<p>ふたりの異国での暮らしも三月が過ぎた頃だった。こんな言い方をすると、おまえはまた嫉妬に狂うかもしれないが、それは<b>おれと奈都子にとって蜜月ともいうべき、不器用ながらも幸福な生活</b>だった。</p>
<p>ある日、奈都子が買い物に出かけていたとき、おれは何とはなしに奈都子の本を手に取った。それは<b>メディア論の原書</b>だったが、開いたページから一通の封書がこぼれ落ちた。<b>奈都子の大学の担当教授</b>からの書簡だった。</p>
<p>いけないと思いつつも、<b>これは自分が知るべき重要な手紙だ</b>と直感したおれは、急いで便箋の文字に目を走らせた。</p>
<p>教授はまず卒論を読んだこと、そしてその内容が素晴らしい出来であることを評価したうえでこう書いていた。「<b>就職の内定を蹴ったのなら大学院に進みなさい</b>。このままではいけない。とにかく一度、帰ってきなさい。じっくり話し合おう。<b>きみの将来のために、悪いようにはしない</b>」</p>
<p>おれが驚いたのは、<b>上から目線のおとな</b>がよく言う「悪いようにはしない」という決まり文句じゃない。それは＂追伸＂として記された文言だった。</p>
<p>「岡本という男が大学に私を訪ねてきた。<b>きみが就職するはずだった会社の人</b>だね。きみの居所をしつこく尋ねられたが、<b>彼に何か普通でないものを感じた</b>ので知らないと答えておいた。それでよかったかな？」</p>
<p>いま思えば、<b>おれはもっとおまえを警戒すべきだった</b>のだ。だがそのときは、奈都子の進路のことで頭がいっぱいだった。おれのために彼女の将来を潰すわけにはいかない。<b>とにかく奈都子を日本に帰すこと</b>、それが最優先事項だった。</p>
<p>買い物から帰ってきた奈都子はいつも以上に上機嫌で、ドアをあけるやいなや弾んだ声を出した。「あのね、今日いつものパン屋さんでね、マダムって呼ばれたの。ずっとマドモアゼルだったのに、マダムよ！」</p>
<p>おれは黙ったまま、奈都子に教授の手紙を差し出した。</p>
<p>奈都子の顏に一瞬暗い影が落ちたが、すぐに笑顔を取り戻すと「読んだ？」と悪戯っぽい表情で言った。「心配しないで。卒業式のときにちょこっと帰るけど、すぐに戻ってくるから…」</p>
<p>言い終わるまえにおれは奈都子を遮った。<br />
「<b>教授の意見にはおれも賛成だ。院に進学しろ</b>」</p>
<p>「院にはいつでもいけるわ。<b>今はあなたとここにいることが、わたしには大事なことなの</b>。迷惑…かな」<br />
「ああ、はっきり言って、迷惑だ。これ以上<b>お嬢様のお遊び</b>に付き合うほど、おれは暇じゃない」<br />
「本気で言ってる？」<br />
「知ってるだろ、おれはいつも本気だ」</p>
<p>岡本、<b>おれは本気で嘘をついた</b>よ。</p>
<p>そうしておれは、<b>奈都子を強制的に帰国させた</b>。おまえが待ち構えている東京に。あんなことになるなんて知る由もなく。</p>
<p>あのとき奈都子を手離さなければ。マダムと呼ばれ無邪気に喜ぶ彼女を、思いきり抱きしめていれば。おれは今でも、<b>歯ぎしりするほど後悔している</b>よ。</p>
<p>おれは奈都子の担当教授に手紙を書いた。奈都子とここで暮らしていたこと、そして<b>近い将来、奈都子と結婚するつもりでいる</b>ことを率直に伝えた。自分が帰国するまで、どうか彼女を守り導いてあげてほしいと。教授からすぐに返信が届いた。</p>
<p>「きみのことは飯倉くんから聞いている。まずは彼女を帰してくれてありがとう。責任を持って飯倉くんを預かる。だが、<b>彼女を守るのは私ではなく、きみの仕事だよ</b>」</p>
<p>結局おれは、<b>奈都子を守ってやることができなかった</b>。</p>
<p>何よりおれの最大の過ちは、岡本、<b>おまえに奈都子とのことを徹底して秘密にしたこと</b>だ。奈都子は奈都子で、<b>大学を卒業するまで誰とも恋愛しない</b>と、おまえに言った自分の言葉に縛られていた。</p>
<p><b>おまえの奈都子への熱愛ぶり</b>は、周囲の誰もが知っていた。この<b>飛びぬけて優秀な美しい女</b>をものにするのは岡本しかいないと、誰もが思っていたはずだ。一方、おれと奈都子の関係は、おそらく誰ひとり感知していなかっただろう。岡本、おまえを除いては。</p>
<p>おまえだけが、<b>恋する者特有の嗅覚</b>で、おれたちの関係に感づいていた。そして感づいていながら、感づいていないふりをした。<b>検証されていない以上、それは今のところ事実ではない</b>。おまえはそう考えたのだろう。</p>
<p>案の定、<b>奈都子の卒業式の日におまえは現れた</b>。それは想定内だった。大学の正門前に佇むおまえの姿を教授が確認している。教授は機転を利かせ、奈都子を裏門から帰した。奈都子が出てくるのを待って、おまえは何時間もそこに立ちつくしていたそうだな。</p>
<p>奈都子はおまえに申し訳ないと思っていたようだが、おれはおまえに同情はしない。<b>卒業式という晴れの日に、大学を裏門から出て行かねばならなかった奈都子</b>をこそ哀れに思う。</p>
<p>だが、これであきらめるおまえじゃない。</p>
<p>その後の話はおれが語るまでもないが、とにかくおまえは、<b>とうとう奈都子を探し当てた</b>。自然な再会を装い、持ち前の人懐っこさで奈都子の警戒心を解いた。そうして少しずつ、<b>奈都子の生活圏に踏み込んでいった</b>。</p>
<p>もともと奈都子は、決しておまえを嫌ってはいなかった。上からは信頼され、下からは慕われる人望の厚いおまえを、むしろ尊敬していた。</p>
<p>ただ一方で、<b>目的のために手段を選ばないおまえという人間</b>を怖れてもいた。人ひとりを簡単に海外に飛ばしてしまえるおまえの、<b>直情的で容赦ない冷徹さ</b>と、会社での影響力を怖れていた。</p>
<p>そんなおまえに見つかってしまったのだ。かくれんぼが終わってもなお、奈都子は「まあだだよ！」と心の中で叫び続けていた。おまえを<b>受け入れることも拒むことも、どちらもできなかった</b>のだ。</p>
<p>自分の出方次第で、またおれに累が及んでしまう。だから、<b>ふたりの関係は断じて知られてはならない</b>。奈都子はそう思った。</p>
<p>それは岡本、おまえにとってむしろ好都合だった。<b>知らないふりをすることで、おまえは自由に奈都子に接近できた</b>わけだからな。人の弱みにつけこむ卑劣なやり方だ。</p>
<p>おれが知っているのはここまで。なぜって、<b>奈都子がいなくなった</b>からだよ。</p>
<p>そうだ。おまえの前から姿を消しただけじゃない。<b>奈都子はおれにも連絡を寄こさなくなった</b>。電話も通じない。アパートも引き払ったらしく、手紙は宛先不明で戻ってきた。</p>
<p>教授か？ もちろん電話したよ。だが彼の受け答えは要領を得ないもので、何かあると思ったおれはすぐに休暇を取って帰国し、教授に会いに行った。おまえも行ったんだろう？ 教授の研究室に。</p>
<p>ああ、はじめはおれにも「知らない」の一点張りだった。だが、<b>教授が知らないはずがない</b>。彼の表情には明らかに、<b>事情を知っている人の困惑</b>が見て取れた。そしてもうひとつ、<b>おれに対する憐憫の情</b>がそこにはっきりと表れていた。</p>
<p>「頼むから、<b>彼女を探さないでくれ</b>」<br />
やがて教授は絞り出すように言った。<br />
「それで僕が納得して帰るとお思いですか」<br />
おれは教授につめ寄ったよ。<br />
「きみが納得しないのはわかっている。わかっているが、<b>今はそうお願いするしかない</b>」</p>
<p>「なぜ先生が、僕にお願いするんですか？ 僕がお願いしているんです。<b>いったい奈都子に何があったんですか？</b> 彼女に会わせてください」</p>
<p>「きみには悪いが、わたしは飯倉くんの意思を尊重する」<br />
「黙って姿を消して、もう会わないというのが<b>奈都子の意思</b>ですか」<br />
「飯倉くんを無理やり帰国させた、わたしの責任だ。本当にすまない」</p>
<p>教授は何度も首を振って、深いため息を吐いた。</p>
<p>「それなら僕も同罪です。彼女を帰したことを、いま激しく後悔しています」<br />
「とにかく心配しないでくれ。飯倉くんは元気だ」<br />
「先生は、奈都子の居場所をご存知なのですね」</p>
<p>「<b>いつか必ず、彼女はきみの前に現れる</b>。それまで待ってやってくれないか」</p>
<p>「それはいつですか。<b>半年後ですか？ 一年後、五年後、それとも二十年後ですか！</b>」</p>
<p>おれの剣幕に教授は一瞬ひるんだが、覚悟を決めるように言った。<br />
「<b>飯倉くんとの結婚は、もうあきらめたほうがいいだろう</b>」<br />
「それも奈都子の意思ですか。それとも先生のご意見ですか？」</p>
<p>「これだけは伝えておこう。きみは私への手紙に、<b>飯倉くんと結婚するつもりだ</b>、と書いたね。それを話したら、彼女は目を潤ませて喜んでいたよ」</p>
<p>そう言うと教授は、心から申し訳なさそうな顔をして言葉を繋いだ。<br />
「それなら何故？と、きみは問いたいだろう。だが、その質問はしないでもらいたい。飯倉くんもそれを望んでいる。<b>人生には知らないほうがいいこともたくさんある</b>」</p>
<p>まだ若かったんだな。おれはこうした、<b>上から目線のおとなの常套句</b>が大嫌いだった。「人生には知らないほうがいいこともある」「あきらめたほうがいいだろう」「悪いようにしないから」などなど。</p>
<p>頭にきたおれは、こともあろうに<b>腕づくで教授から真相を聞き出そう</b>と考えた。<br />
「<b>知るべきことを知らないですませる</b>頓馬な生き方を、僕はしたくない。その気になれば、先生の口を割らせることは、それほどむずかしいことではありませんよ」</p>
<p>「きみはやさ男のくせに腕っぷしは強いと、飯倉くんから聞いている。<b>それでも、わたしはしゃべらない</b>。わたしはケンカはからっきしダメだが、<b>暴力に屈しない強さ</b>は持っているつもりだ。試してみるかね？」</p>
<p>「<b>奈都子を守るのは僕の仕事だ</b>って、先生はおっしゃった。なのにどうして、先生が守ろうとしているんです？ いったい<b>先生は、奈都子の何を守ろうとしているんですか！</b>」</p>
<p>「何度も言ったよ。いま私が必死に守ろうとしているのは、飯倉くんの意思だ。いいかね、語り人くん。私たちはもはや、<b>彼女の意思を守ってやること</b>しかできないのだよ。なぜなら…」</p>
<p>教授はここで言い淀んだ。おれの身体に緊張が走った。<br />
次の言葉だ。<b>教授は必ずヒントをくれるはずだ</b>、とおれは直感した。<br />
「なぜなら？」おれは柔らかい声で復唱した。</p>
<p>「飯倉くん自身が<b>守る側</b>を選択したからだ。<b>守られる側</b>ではなくてね」</p>
<p>「さあ、ここまでだ。もう十分だろう。帰りたまえ」<br />
そう言うと教授は、<b>もう何ひとつしゃべらない</b>とばかりに目を閉じ、口を真一文字に結んだ。<b>教授も奈都子の熱烈なファンのひとりなのだ</b>と、そのとき思った。</p>
<p>「<b>奈都子に伝言をお願いできますか</b>」おれは最後の手に打って出た。<br />
「言ってみなさい」教授は目を閉じたまま言った。</p>
<p>おれは自分の言葉じゃなくて、奈都子の好きな<b>『かもめ』</b>の、ある台詞の一部分を朗誦した。</p>
<p>「君は自分の道を見つけて、ちゃんと行く先を知っている。だが僕は相変らず、妄想と混沌のなかをふらついて、一体それが<b>誰に、なんのために必要なのか</b>わからずにいる。僕は信念が持てず、<b>何が自分の使命か</b>ということも、知らずにいるのだ」</p>
<p>「<b>チェーホフ</b>、かね」教授は薄目を開けて言った。「わかった。伝えよう」<br />
「先生、僕は<b>悲劇</b>を演じればいいんでしょうか？ それとも、これは<b>喜劇</b>ですか？」<br />
「チェーホフなら＂<b>喜劇だ</b>＂と言うだろうね」<br />
おれは笑って「そうですね」と返して、もうひとつ教授に伝言を頼んだ。</p>
<p>「<b>会社は辞める。だから、もう心配するな</b>」</p>
<p>案の定、教授はこの言葉に反応した。目を見開いて、はじめて大声を出した。<br />
「馬鹿なことを言うんじゃない！ <b>それじゃあ、飯倉くんは何のために</b>…」</p>
<p>教授はここで言葉を止めたが、もう遅い。これですべてがわかった。<br />
いや、すべてじゃないな。<b>ひとつだけ、わからないことがあった</b>。それが判明したのは、つい最近のことだよ。</p>
<p>「もっと早く辞めるべきでした」<br />
そう言っておれは教授に頭を下げ、研究室をあとにした。教授の<b>上から目線のおとなの常套句</b>を背中に聞きながら。「<b>人生を棒に振るんじゃないぞ！</b>」</p>
<p>岡本、あのまま会社にいたら、<b>おれはおまえを、殺していたよ</b>。</p>
<p>あははは。心配するな。今はそんなこと考えていないよ。そうだな。おまえの命は、奈都子に救われたわけだ。償いをしたい？ <b>償いなんて言ってるうちはダメだな</b>。それは自己満足に過ぎない。<b>おまえに自己満足なんかさせてたまるか</b>。</p>
<p>さあ、物語も佳境に入った。<b>ここからが大事な話だ</b>。岡本、覚悟して聞け。</p>
<p>ひと月ほど前、奈都子から連絡がきた。ああ、<b>Facebookからのメッセージ</b>だ。<br />
そして一週間前、<b>彼女は東京にやってきた</b>。そうだ、おれに会いにきたんだ。<br />
二十年ぶりだぞ。正確には二十二年ぶりになるな。</p>
<p>だから、<b>あのときのまんまの奈都子</b>が目の前にいて、おれは腰が抜けそうになった。<b>彼女は四十五歳のはずだ</b>。ありえないことだった。</p>
<p><b>謎はすぐに解けた</b>よ。</p>
<p>彼女はおれの背後からきた人に視線を移すと、その人に声をかけた。<br />
「あっ、ママ！ 語り人さん、<b>やっぱり私をママだと思ったみたいよ</b>」</p>
<p>そうだ。ママと呼ばれたのが奈都子で、ママと呼んだのが<b>娘の＂千絵＂</b>だ。</p>
<p><b>チェーホフからとった名前</b>だそうだ。美しい名前だろ？</p>
<p>どうした？ 岡本、顔色が悪いぞ。<b>自分の子どもかどうか、心配なのか？</b></p>
<p>奈都子は最後まで、それを明かさなかったが、おれにはわかった。そして、<b>おれがわかったことに奈都子は気づいた</b>。おまえも、会えばわかる。それまで、悶々と苦しむがいいよ。</p>
<p>二十二年前、<b>お腹に子を宿したことを知った</b>奈都子は、京都の実家に身を寄せた。母方の性を名乗り、名前も漢字を変えた。つまり、それほどおれたちから身を隠したかったわけだ。</p>
<p><b>おれは奈都子を探さない</b>と教授に約束したから、京都には行かなかった。おまえは行ったそうだな。だが、ここでもおまえは門前払いをくらい、奈都子に会うことはかなわなかった。<b>おまえも、つくづく悲しい男だよ</b>。</p>
<p>ああ、もうこんな時間か。おれは終電で帰るぞ。明日も早いからな。<br />
朝まで飲もうって？ バカか、おまえは。昔の話をしてるからって、昔に戻った気になるな。<b>おれたちはもう若くない</b>んだ。ここから先は駆け足で話すぞ。</p>
<p>千絵が三歳のとき、<b>奈都子は千絵を連れアメリカに渡った</b>。</p>
<p>奈都子はもともと帰国子女で、中学まで向こうにいたのは知ってるよな。その家には当時、奈都子の母の弟夫婦が住んでいて、母子はそこに居を定めた。さらに教授の推薦で、近くの大学院に籍を置いたそうだ。ドクターを取得したあとは、<b>美術館や図書館の運営</b>などに携わっていたらしい。</p>
<p>十年後に帰国して京都に戻り、京都と大阪の<b>美術館や歴史資料館</b>、それから<b>劇場やシンフォニーホールの立ち上げ</b>に尽力した。さらに<b>ＵＳＪのイベント企画</b>を手掛けたりもした。そして現在は、<b>大阪の名門私立大学の教授</b>でもある。</p>
<p>千絵が話してくれたよ。<b>二十二年間の奈都子の来歴</b>を。千絵は話がじょうずなんだ。奈都子は、ただ黙って微笑んでいて、おれの表情の変化を見て楽しんでいるようすだった。</p>
<p>驚いたか？ おれはうれしかったよ。<b>奈都子は娘を守って、おれとおまえを守って、そしてちゃんと自分も守った</b>。ああ、奈都子は今でもとびきりの美人だよ。そうだ。ずっとシングルマザーだ。</p>
<p>千絵は、おれのことをずっと「<b>お父さんだと思っている</b>」と言った。それから、こうも言った。「ママったらスゴイわよね。だって、<b>私にはお父さんがふたりいる</b>んだもの」</p>
<p>そうだよ。奈都子はおれたちから身を隠したが、<b>娘に対して隠し事はしなかった</b>。千絵が幼いころから「ママが愛した男性」と言って＂<b>千絵のふたりのお父さん</b>＂の話を聞かせていたらしい。</p>
<p>おい、泣くな岡本。みんな見てるぞ。おれが泣かしてるみたいじゃないか。</p>
<p>では、<b>なぜこのタイミングで、奈都子はおれの前に姿をあらわしたのか。</b></p>
<p>たぶん、千絵だと思う。千絵はおれたちの、いや、おまえの会社に入りたがっている。<b>母親が果たせなかったことを、自分が果たそうと考えている</b>んだろう。あるいは、これは<b>奈都子が二十二年間、目論んできたこと</b>かもしれない。</p>
<p>いずれにしても、<b>過去からの素晴らしい贈り物</b>だと思わないか？</p>
<p>岡本、<b>これからおまえがやるべきこと</b>が何か、わかったな。</p>
<p>まだ飲むのか！おまえがそんなに泣き上戸だとは知らなかったよ。</p>
<p>じゃあ、おれは帰るぞ。<b>大阪行きの日程</b>が決まったら連絡してくれ。</p>
<p>（エピローグ）</p>
<p>「なあ、語り人。ひとつ教えてくれ」<br />
岡本はおしぼりで涙を拭きながら言った。<br />
「もう質問は受け付けない。終電に間に合わなくなるだろ」</p>
<p>「なんで、<b>大阪の仕事</b>が必要なんだ？」岡本はかまわず訊いた。<br />
「ああ、そのことか。奈都子と千絵が、どうしてもおれの<b>収録現場</b>を見たいって言うんだ」</p>
<p>「なるほど、そういうことか。<b>妻と娘の＂パパのお仕事参観＂</b>ってやつだな」<br />
「岡本、おまえやっぱり、おれに絞め殺されたいらしいな」</p>
<p>「おれも、ぜひ見たいよ。おまえの収録現場」<br />
「おまえは見なくていい。パチンコでもやってろ」<br />
「語り人、<b>へたくそだったら会社に連れ戻すからな</b>」<br />
「おお、そりゃ大変だ。死ぬ気で頑張らなきゃな！」</p>
<p>そう言うと岡本は、笑いながら握手を求めてきた。</p>
<p>「時間を取らせて悪かったな。おもてに車を待たせてある。寝ながら帰ってくれ」<br />
「まさかおまえ、社用車じゃないだろうな」<br />
「違うよ」と言いながら、岡本は握手をした僕の手に一枚の紙を握らせた。</p>
<p>「なんだ、タクシーチケットか」<br />
「お車代でございます」<br />
「お車代はふつう現金だろ」</p>
<p>「現金はどうかご勘弁を。これから<b>何かと物入り</b>になるんでね。おい、語り人、<b>娘へのプレゼント</b>は何がいいかな？ 二十二年分だからな、そうとう弾まなきゃならんだろう。おまえもだぞ。大阪に行く前に一度、打ち合わせをしよう」</p>
<p>岡本、<b>つくづく憎めないやつ</b>だよ、おまえは。<br />
千絵はきっと、<b>おまえのことを大好きになる</b>だろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><b>『過去からの贈り物』─ 完 ─</b></p>
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		<title>過去からの贈り物（下）</title>
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		<pubDate>Sat, 13 Feb 2016 02:41:10 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[ボイスエッセイ]]></category>
		<category><![CDATA[バー]]></category>
		<category><![CDATA[丹田]]></category>
		<category><![CDATA[嫉妬]]></category>

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		<description><![CDATA[２０年ぶりに再会するその人は、間違いなく４５歳になっているはずだった。なのに、僕は幻覚を見ているのか。その容姿も体型も、髪形も服装も、眩いばかりの精神の溌剌さも、もう何から何まで、僕の記憶に鮮明に焼き付いている、２０年前 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>２０年ぶりに再会するその人は、間違いなく４５歳になっているはずだった。なのに、僕は<b>幻覚を見ているのか</b>。その容姿も体型も、髪形も服装も、眩いばかりの精神の溌剌さも、もう何から何まで、僕の<b>記憶に鮮明に焼き付いている、２０年前の彼女そのまま</b>なのだ。<br />
「語り人さん！」昔のままの<b>澄んだ声</b>で彼女は僕を呼んだ。<br />
<b>タイムスリップした人のように僕はうろたえた</b>。<span id="more-609"></span></p>
<p><b>（</b><a title="過去からの贈り物（中）" href="http://kataribito.net/short/s0008/"><b>過去からの贈り物（中）</b></a><b>のつづき）</b></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>と、ここまで書いて僕は筆を止める。<br />
まずい。このまま書き進めていけば、またしても<b>長大な物語</b>になる。</p>
<p>そもそも<b>本稿はエッセイだった</b>はず。しかし、エピソードの端緒を僕はすでに書いてしまった。ディテール描写はなるべく控えるので、どうかこのままお付き合い願いたい。</p>
<p>というわけで、<b>いきなり出てきた謎の女性「奈都子」とは何者なのか</b>。その話をするにはここでもう一人、<b>このエピソードに欠かせない重要人物</b>に登場してもらわねばならない。</p>
<p>僕と<b>同期入社で同い年</b>のその男は、最年少で役員に就任し、今や<b>次期社長</b>と目される大物だ。名前を岡本としておく。岡本とはおよそ10年ぶり、いや酒を酌み交わすのは25年ぶりだった。</p>
<p>僕たちは昔よく一緒に飲んだ<b>銀座のバー「ルパン」</b>にいた。</p>
<p><b>アルセーヌ・ルパン</b>の名前に由来したこの店は、昭和三年から続く<b>老舗の文壇バー</b>で、<b>川端康成</b>、<b>永井荷風</b>、<b>泉鏡花</b>、<b>菊池寛</b>など錚々たる作家たちの溜まり場だった。<b>太宰治や坂口安吾</b>も常連だったことで知られている。</p>
<p>場所柄もあってか、当時から<b>新聞社の人間</b>や、丸の内の<b>三菱系の会社員</b>も多く出入りしていた。</p>
<p>ビアジョッキ２杯を空けて、それから岡本は山崎１２年のオンザロック、僕はドライマティーニでふたたび乾杯した。それが合図だったみたいに岡本は急にあらたまった態度で言った</p>
<p>「語り人、あのときはすまなかった。おまえの味方をしてやれなかった。おまえはいつだっておれをかばってくれたのに」</p>
<p>彼がいつの何の話をしているのかすぐにわかったが「いったい何の話だ？」と僕はとぼけてみせた。岡本はそのときの出来事を苦渋の表情でぽつぽつ語り、最後にもう一度、僕に謝罪した。しかし岡本は全部を話していない。<b>核心的な部分を巧妙にぼかしていた</b>。</p>
<p>「昔のことだ。おれが覚えてるのは、おまえは人気者で、おれは嫌われ者だったということだけだ。<b>人気者には人気者の仕事があり、嫌われ者には嫌われ者の仕事がある</b>。おれたちは結構、いいコンビだったよな」</p>
<p>僕がそう言って笑うと、岡本は目を潤ませて何度も頷いたあと、ふっと表情を緩めて言った。「変わってないな、語り人は。<b>そんなおまえに、おれはずっと嫉妬していたんだ</b>」</p>
<p>「嫉妬だって？ 冗談じゃない！」僕は呆れたように返した。岡本は同期で一番の出世頭で、若手の花形社員だった。同期の男子社員みんなが多かれ少なかれ<b>彼に嫉妬していた</b>のだ。</p>
<p>「おまえは嫉妬なんかしないだろ？」<br />
僕の目を覗き込むようにして岡本は言った。<br />
「いかにも。それが<b>嫌われ者の流儀</b>でござる」<br />
僕がおどけてそう言うと、岡本はからだを揺すって大声で笑った。</p>
<p>途中から僕は気づいていたが、<b>彼もまた過去の後悔を引きずっていた</b>。そして禊（みそぎ）のために、今の自分を書き直すために僕に会いに来たのだ。ならば、僕も腹をくくろう。今こそ岡本と僕がそれぞれに隠し持ってきた<b>パンドラの箱</b>を開けるべきときだった。</p>
<p>「おれにもある。<b>おまえに謝らなければならないこと</b>が」<br />
声のトーンを変えて僕が言うと、岡本は「きたか」という顔をした。そのくせ表情とは裏腹な言葉を口にした。「そんなもん、おまえにはないだろう」</p>
<p>「<b>飯倉奈都子</b>。覚えてるか？」<br />
「忘れるはずがない。<b>おれたちのアイドル</b>だった」<br />
僕の問いかけに岡本は即答した。</p>
<p>その当時、僕たちの部署に<b>編集アシスタントの女子大生</b>がいた。今でいうインターンシップ生だ。大学三年生の彼女は、卒業後この会社への就職を志望していた。</p>
<p>「いい子だったよな。<b>美人で頭が良くて</b>、そのうえ<b>素直で気立てが良くて</b>。<b>ミステリアスな雰囲気</b>も魅力だった。おまえの意見は？」</p>
<p>岡本は<b>飯倉奈都子の熱烈な讃美者</b>だった。</p>
<p>「<b>声がきれい</b>で、<b>話すときと食べるときの口元もきれい</b>だった」<br />
僕が答えると、岡本は大きく頷いて言った。「<b>パーフェクトな女</b>だった」</p>
<p>岡本だけじゃない。若手男子社員のほぼ全員が、彼女の気を引こうとやっきになっていた。</p>
<p>そんなあるとき、岡本のかけ声のもと「<b>飯倉奈都子の純潔を守る会</b>」という、なんとも馬鹿げた会が発足した。</p>
<p>いわく、<b>飯倉奈都子に個人的感情を抱いてはならない</b>。いわく、<b>飯倉奈都子を個人的に食事および飲みに誘ってはならない</b>。他にも１０項目くらいあったと思うが、結びの言葉はこうだった。<b>飯倉奈都子に手を出すやつはこの岡本が許さない</b>。</p>
<p>「あの子は内定を控えたうちのアイドルだ。我が社にきれいなかたちで入社できるよう、みんなで大切に守って応援してあげようじゃないか！」</p>
<p>岡本がなぜ急にこんなことを言い出したのか、僕は知っている。岡本はひた隠しにしていたが、<b>真っ先に飯倉奈都子に個人的感情を告白したのは他ならぬ彼だった</b>。その事実を僕は飯倉奈都子本人から聞いていた。</p>
<p>彼女は岡本からの交際の申し出を、遺恨が残らないよう上手に断った。<b>卒業してこの会社に入社するまでは誰とも恋愛するつもりはない</b>。だからお願いだ。そのときまで静かに見守っていてほしいと。</p>
<p>自信家の岡本は、これを拒絶とは取らなかった。むしろ控えめな肯定と捉え、ますます熱を上げた。<b>飯倉奈都子にふさわしい男は自分しかいない</b>。だからそのときまでは<b>誰にも、断じて、指一本触れさせない</b>。あの子をものにするのは自分なのだ。</p>
<p>「飯倉奈都子がどうした？」岡本はロックグラスを揺らしながら眉間に皺を寄せて険しい顏をした。このとき僕は確信した。この男は知っている。やはり岡本は、<b>飯倉奈都子と僕の関係を知っていた</b>のだ。</p>
<p>「その後おまえが海外に赴任してまもなく、彼女は突然うちを辞めた。せっかく手にした内定も返上した。それは…」ここで岡本は言葉を止めた。<b>絶妙な「間」</b>だと感心している自分が可笑しかった。</p>
<p>「それは、おれのせいだと思っていた。はじめはな。いや、やっぱりおれのせいだろう」<b>ひねりを入れた巧妙な言い方</b>に、僕はまたしても感心してしまった。しかし感心ばかりしている場合じゃない。<b>岡本は僕に自白させようとしている</b>。だからここへ呼び出したのだ。</p>
<p>「そうだよ。おれは<b>抜け駆け</b>をした」僕はすんなり自白した。<br />
「それはおれの抜け駆けの前かあとか、つまり、おれが<b>飯倉奈都子の純潔を守る会</b>をつくった前かあとか、どっちだ？」岡本も自分が抜け駆けしていたことを自白した。</p>
<p>「あとだ」と僕は正直に答えた。<br />
「そうか、あとか…」岡本は拍子抜けしたような顔をした。<br />
「だからおれは裁かれて<b>島流しの刑</b>に処された」ひと息で僕は言った。<br />
「どっちにしろおれはフラれて、おまえは受け入れられた。彼女は…」岡本はまた間を取った。</p>
<p>「<b>嫌われ者の支持者</b>だった」と僕は引き取った。<br />
「彼女に何をしたんだ？」と岡本は訊いた。<br />
「彼女が好きだと言った<b>チェーホフ</b>の話で盛り上がった。<b>『かもめ』</b>のトリゴーリンの台詞をおれが口ずさむと、彼女はニーナの台詞で返してきた。それがきっかけだ」</p>
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=amebablog05d-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4087606511&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>
<p>「どんな台詞だ？ いや、待て。やらんでいい。もうわかった。とにかくおまえは自分の得意分野に持ち込んで、<b>得意技を使って彼女を口説き落とした</b>」</p>
<p>「おれが持ち込んだわけじゃない。口説き落としてもいない」<br />
「<b>自然に惹かれ合った</b>と言いたいのか。おれと違って」岡本は鼻で笑った。</p>
<p>「おれが<b>邪魔だった</b>みたいだな」僕はそう言ってみた。<br />
「そのときは<b>嫉妬に狂ってた</b>。だから…」岡本はまた間を取ろうとする。<br />
「だからおれが<b>海外に飛ばされるよう画策した</b>」間を取らせないよう僕が引き取った。</p>
<p>「知ってたのか？ 最初から」岡本は悲壮な表情を見せた。<br />
「いや、いま知った」僕は嘘をついた。「こう見えておれは鈍感なんだ」<br />
「<b>飯倉奈都子を取られたくなかった</b>。おまえにだけは」岡本は絞り出すように言った。</p>
<p>「取ったとか取られたとか嫉妬に狂ったとか、<b>反吐が出るほど陳腐な台詞</b>だな。とにかく、おれが日本を離れてるあいだ、おまえは奈都子を…」<br />
「……」岡本も黙った。間を取ったわけではないようだった。</p>
<p>「同じ質問をする。彼女に何をした？」僕は少し凄んで言った。<br />
「そうだよ。おれは<b>陳腐な卑怯者</b>だ！」追い込まれた人がそうするように岡本は開き直った。</p>
<p>「そんな言葉じゃ足りないな」<br />
「ああ、おれは<b>友情を踏みにじった下劣な男</b>だ」</p>
<p>「安い友情を語るな。<b>おまえが踏みにじったのは飯倉奈都子の青春だ</b>」<br />
「結果、おれは<b>永遠に彼女を失った</b>」</p>
<p>「相変わらず自分のことばかりだな、おまえは。まあ、出世は勝ち取ったじゃないか。社長就任を目前にして、今さら<b>青春の過ちを懺悔</b>ってか？ 虫のいい話だな」</p>
<p>「語り人、おれは何をすればいい？ 教えてくれ」<br />
「自分で考えろ。今やおまえは<b>大企業の頂点に立つ男</b>だろ」</p>
<p>「おまえが帰国後、会社を辞めたのはおれのせいだ。<b>飯倉奈都子と別れる原因</b>をつくったのも、きっとおれだろう。その後いろいろあったことは聞いて知ってる。おまえらしく生きてるようだが、おれに出来ることがあったら言ってくれ」</p>
<p>「そうか。じゃあ頼みがある」思い切って僕は言ってみた。<br />
「おまえはうちのＯＢだ。<b>グループ会社の重役のポスト</b>くらいならすぐ空けられるぞ。社長がいいならちょっと調整が必要だが、まあ何とかなる」</p>
<p>「バカか、おまえは。おれは今の<b>ナレーター稼業を愛してる</b>んだ」<br />
「たいして稼げないだろう。年収はいくらだ？」<br />
「余計なお世話だ。生活に困らない程度に仕事はある」<br />
「もっと欲を出せ、語り人。じゃあ今後は<b>声案件でサポート</b>させてもらう。で、頼みって何だ？」</p>
<p>さあここからだ。身体の重心を丹田に落として僕は言った。<br />
「<b>おれを大阪に行かせてくれ</b>」</p>
<p>「大阪？ ああ、おまえのエッセイは読んだ。それが頼みごとか？ わかった。<b>大阪の仕事</b>をつくればいいんだな？ すぐに大阪本社に連絡を取って何かみつくろわせよう」</p>
<p>さすが岡本だ。話が早い。えっ、エッセイを読んだ？<br />
（ボイスエッセイ「<a title="大阪へゆきたし（上）" href="http://kataribito.net/short/s0005/"><b>大阪へゆきたし</b></a>」参照）</p>
<p>「<b>大阪本社</b>はまずいんじゃないか。<b>東京本社</b>とは昔から良好な関係とはいえないだろう」心配して僕は言った。</p>
<p>「だいじょうぶだ。同期の森田が、いま大阪の広告局長をやってる」<br />
「えっ、あの森田が？ なんで大阪へ行かされたんだ。しかも広告だって？」<br />
「それはまた詳しく説明する。森田はおまえに懐いてたからな。喜ぶぞ！」</p>
<p>「岡本、おまえも一緒に来い」<br />
「おれも大阪にか？ なんでだ」<br />
「おれたちの<b>青春を書き直す</b>んだ」<br />
「大阪で青春を書き直す？ どういう意味だ」<br />
「この流れだ。少しは想像してみろ」</p>
<p>「まさか、<b>飯倉奈都子が大阪にいる</b>って話か？」<br />
「ああ、<b>あのときのままの飯倉奈都子</b>がな」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（「過去からの贈り物（完）」につづく）</p>
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		<item>
		<title>過去からの贈り物（中）</title>
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		<pubDate>Mon, 01 Feb 2016 12:02:17 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[ボイスエッセイ]]></category>
		<category><![CDATA[タイムスリップ]]></category>

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		<description><![CDATA[あらためて僕はこう言わなければならないだろう。 「頼むから、僕を自由にしないでくれ」 ひとりでいることが自由でないことくらい、  僕だって知っている。 （過去からの贈り物（上）のつづき） そんな気取ったオチをつけてみが、 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>あらためて僕はこう言わなければならないだろう。<br />
「頼むから、僕を自由にしないでくれ」<br />
<b>ひとりでいることが自由でないことくらい、</b><b> </b><b><br />
</b><b>僕だって知っている。<span id="more-602"></span></b></p>
<p><b>（</b><a title="過去からの贈り物（上）" href="http://kataribito.net/short/s0007/"><b>過去からの贈り物（上）</b></a><b>のつづき）</b></p>
<p>そんな気取ったオチをつけてみが、それにしても、やはり疑問は残った。<br />
秋から年末にかけての、<b>あの雪崩のような目まぐるしい出来事はいったい何だったのか</b>。</p>
<p>何故かくも、この期に及んで、縁の途切れて久しい人たちばかりが何人も、まるで申し合わせたように<b>過去の茶ばんだアドレス帳を引っ張り出して僕に声をかけてきたのか</b>、ということである。なかには「今さら」の感が否めない人もいた。</p>
<p>でも、うれしい再会もあったよ。<b>懐かしさに胸が熱くなる再会</b>も。二度と再び交差しないだろうことを互いに感じながら、<b>笑顔で別れた再会</b>もあった。また会いたい人には「今度はオレに奢らせろよ」と肩をたたき合い、もう会うことのないだろう人には「活躍を見守っている」とエールを送り合った。</p>
<p><b>温故知新</b>──もっとも人口に膾炙したこの四字熟語の、僕は勇ましい実践者だった。そう、<b>新しい出会いもあった</b>んだ。</p>
<p>今後さらに関係を発展させたいと思える人との<b>鮮烈な出会い</b>があった。年甲斐もなく恋心を呼び覚まされるような、泣き虫で笑顔の美しい可憐な女の子との<b>清新な交流</b>もあったよ。</p>
<p>それなのに、そんな人たちとの<b>心躍る交流</b>に待ったをかけるように登場した、今となっては「<b>招かれざる客」</b>というべき<b>モノクロームの闖入者たち</b>。</p>
<p>これはいったいなんの「<b>伏線</b>」なのか。あるいは何かの「<b>暗示</b>」なのか。このにわかには信じがたい出来事から僕は<b>何を気づき</b>、<b>何を学ぶ</b>べきなのか。</p>
<p>答えはわかっている。</p>
<p>それは「後悔」だ。<b>過去に置き去りにした僕の強い後悔の念が、彼らを今一度、現在に呼び戻したのだ。</b></p>
<p><b>誤解や無理解、高慢や偏見、怠慢や諦念、不安や臆病、弱さや自信のなさ</b>など、<b>ネガティブな感情から袂を分かった人たち</b>一人ひとりと、もう一度きちんと向き合い決着をつける。僕にはそうする必要があった。</p>
<p>これは僕にとっての<b>禊（みそぎ）</b>なのだ。そう考えるしか、この<b>不思議な出来事</b>の合理的な説明はつかなかった。</p>
<p>そうして、<b>過去にやり残した「後悔」と言う名の宿題</b>をひとつひとつ、ただひたすら精魂込めて片付けていくうちに、<b>僕の</b><b>2015</b><b>年は終わった</b>。</p>
<p><b>2016</b><b>年が始まった</b>今、この数カ月間に起こった椿事を振り返って思うこと。それは、このことによって「<b>僕の中の何かが変わっただろうか</b>」ということである。</p>
<p>それはわからない。わからないし、わかろうとも思わない。<b>変化とは、自分ではなく周りが認知すること</b>だからだ。</p>
<p>ただ、これだけは言える。僕はもう、<b>過去を苦し紛れに封印したりはしない</b>。後悔を引きずるような生き方はもうしないよ。「<b>人はいくつになっても自分を書き直せる</b>」ことを知ったから。</p>
<p>むろん過去を書き直すことはできない。<b>過去のある出来事を後悔している今の自分を書き直すのだ</b>。</p>
<p>それを教えてくれたのが、<b>過去から突然現れた彼ら</b>だった。</p>
<p>突然現れたといっても、もちろん昔のままの姿じゃない。歳月はその分だけ、彼らに年を取らせていた。<b>容色の衰え</b>や<b>精神の摩耗</b>といった容赦ないかたちで。それは僕だってそう。<b>僕たちに等しく与えられているのは、命あるあいだの物理的な時間だけなのだ</b>。</p>
<p>そんな中ひとりだけ、その<b>物理的時間の制約</b>をまったく受けずに生きてきた、そうとしかいいようのない、つまり<b>昔と寸分違わぬ姿で僕の前に現れた人</b>がいた。その人の話をしよう。</p>
<p>二十年ぶりに再会するその人は、間違いなく45歳になっているはずだった。なのに、僕は<b>幻覚を見ているのか</b>。その容姿も体型も、髪形も服装も、眩いばかりの精神の溌剌さも、もう何から何まで、僕の<b>記憶に鮮明に焼き付いている、二十年前の彼女そのまま</b>なのだ。</p>
<p>「語り人さん！」昔のままの<b>澄んだ声</b>で彼女は僕を呼んだ。</p>
<p><b>タイムスリップした人のように僕はうろたえた</b>。周りをきょろきょろと見廻し、それから自分の顏に手を触れ、その手を素早くチェックした。自分に変化がないことがわかると、僕はあらためて視線を彼女に戻した。</p>
<p>「な、奈都子…なのか？」僕は咄嗟に<b>少し若い声をつくった</b>はずだが、その声が二十年前と遜色ないか、そんなことがひどく気になった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（<b>過去からの贈り物</b>（下）につづく）</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>過去からの贈り物（上）</title>
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		<pubDate>Fri, 22 Jan 2016 23:43:13 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[ボイスエッセイ]]></category>
		<category><![CDATA[シンクロニシティ]]></category>
		<category><![CDATA[共時性]]></category>
		<category><![CDATA[過去通信]]></category>

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		<description><![CDATA[絶賛連載中だった（？）「ジョージの伝言」６章を最後に消息不明になっていた語り人です。えっと、更新が昨年の８月だから、つまり半年近く僕は行方をくらましていたことになる。 続きを楽しみに待ってくれていたかた、そして借金取りみ [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>絶賛連載中だった（？）<b>「ジョージの伝言」６章</b>を最後に消息不明になっていた語り人です。えっと、更新が昨年の８月だから、つまり半年近く僕は行方をくらましていたことになる。</p>
<p>続きを楽しみに待ってくれていたかた、そして借金取りみたいな催促のメッセージをくれたかた、ごめんなさい。正直に言います。<b>語り人は居留守を使っていました</b>。<span id="more-596"></span></p>
<p>あなたは何度もブザーを鳴らし、ドアをドンドン叩き、ドアノブをガチャガチャ回し、大声で僕を呼びましたね。「<b>語り人さん、そこにいるのはわかってるんですよ！</b>」</p>
<p><b>「ジョージの伝言」７章</b>をお届けする前に、今日はその「言い訳」を聞いてください。むろん陳腐なありきたりの言い訳はいたしません。語り人ですから。この間に起こった不思議なお話をします。</p>
<p>僕にはいろんな<b>不思議を呼び寄せる才能</b>があるみたい（これを才能といってよければね）。</p>
<p>その前に、留守中も<b>心当たりのない人からの心当たりのないメッセージ</b>がたくさん届いた。メッセージというか、ひと言コメントかな。</p>
<p>留守中というのは、ブログを留守にして<b>あっちの世界</b>に行っていた、この半年間のこと。「あっちの世界」というのは、これはちょっと説明が必要かもしれないけど、簡単に言うと僕自身の<b>内的世界</b>のことです。</p>
<p>語り人のことをよくご存知のかたはブログ更新の気配が消えると「きっとまた<b>缶詰め・瓶詰め生活</b>を余儀なくされているのだな」と優しく放っておいてくれるのだけど、未知の人はそうはいかない。いろんなことを言ってくる。たとえばこんなの。</p>
<p>「私のブログも読んでコメントくださいね！」（読む理由がない）<br />
「仲良くしてくれるとうれしいです♡」（仲良しごっこは嫌いだ）<br />
「面白そうなオシゴトですね！(笑)」（何がそんなに可笑しい？）<br />
「私のほうにも遊びにきてください」（それってなんの遊びだ？）<br />
「実は私もナレーター目指してたりします」（勝手にやってくれ）</p>
<p>とまあ、こんな感じなんだけど、驚くべきは、これ一部抜粋じゃない。たったひと言。これだけを送りつけてくる。</p>
<p>みなさんはどう？ きませんか、この手の<b>ＩＴ（一方通行）でＭＫ（無味乾燥）なコメント</b>。（ごめん。僕としたことが、<b>くだらない言葉遊びの流行</b>に乗ってしまったよ）</p>
<p>あと、こんなのもきた。<br />
「<b>ユアボイス・マイボイス</b>、ぜんぶ読みました。どれも<b>本物の作品</b>みたいで感動しました（本物の作品だよ）。ぜひ語り人さんと<b>リアルにお近づきになりたい</b>です（やめておけ）。…（中略）…ところで語り人さんの文章って、あれは<b>村上春樹</b>を意識してるんですか？」</p>
<p>これはちょっと食指が動いたので折り返した。</p>
<p>「ありがとう。でも<b>リアルに僕に近づけば火傷をしますよ</b>。それと文体は、官能小説家の<b>渡辺淳一</b>先生を意識しているつもりです。悪しからず」<br />
案の定、それ以上何も言ってこなかった。</p>
<p>では、もし僕がこう返信していたらどうなっていたか。</p>
<p>「ありがとう。ぜひ、あなたの<b>リアルな生声</b>を聞きたいな。それとユアボイス・マイボイスの文体は、J.D.<b>サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』</b>が念頭にあったことは否定しません。<b>又吉直樹の小説に欠落している文学的洗練</b>といったことを意識して書いています。ちゃんとできているかどうか、あなたの意見を聞かせて。そして、僕を<b>ライ麦畑でつかまえて</b>」</p>
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=amebablog05d-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4560090009&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>
<p>こう返していれば、きっとメッセージのやり取りは続いただろう。リアルにお近づきになれたはずだ。夏までの僕だったらそうしていたかもしれない。でも今はちがう。<b>この半年間で僕は変わったんだ</b>。</p>
<p>変化は秋の訪れとともにやってきた。<br />
昔の友人やかつての仕事仲間たちから立て続けに音信が届き始めのだ。その昔、恋人同士だった女性からも。なんの前ぶれもなく突然に！</p>
<p>もう何年も、あるいは10年20年も連絡を取り合っていない、 言い方は悪いが、すでに過去に属する人たちだ。 ふつうならそれって、<b>何かの宗教か保険の勧誘</b>（このふたつは僕のなかでは同類だ）だったり、もしくは<b>同窓会の通知か不幸の手紙</b>（このふたつも僕のなかでは同類だ）だったりするよね。</p>
<p>でもそうじゃない。<b>彼らは何事もなかったように、いたってふつうに僕に会いたがった。</b>なじみのレストランに予約でも入れるみたいに。</p>
<p>久闊の挨拶もそこそこに「一杯やろうぜ！」とか「ちょっと折り入って相談があるんだけど」とか「ぜひお会いしたいの」とか、まるで三か月前にも親しく顔を合わせたみたいなその誘い文句に、僕はドギマギしてしまった。おいおい、おまえとはかれこれ10年ぶりなんだけど！</p>
<p>この突然の<b>過去通信</b>（とでも言っておこう）は、<b>仕事関係者</b>も例外ではなかった。</p>
<p>それまで長らく僕の声を忘れていた人たち、それはたとえば<b>無関心だったり黙殺だったり嫌悪だったり、波長が合わなかったり歯牙にもかけなかったり</b>、そんなもろもろの理由から、とにかく僕のことを放念していたはずの人たちが、こぞって何年かぶりに仕事の依頼してきたのだ。</p>
<p>ひとりやふたりではない。十指に余る人たちが、時を同じくしていっせいに「せーの！」という感じで僕のことを思い出したらしいのだ。</p>
<p>もしもあなたが注意深く意識的な人なら、<b>共時性（シンクロニシティ）</b>という現象が、しばしば自分の身に起こることをご存知だと思う。</p>
<p>でも<b>今回僕に起こった共時性は尋常ではない</b>。関連性のない１０人が同時に記憶の古いノートを開いたら、１ページ目に語り人がいたって？　まさか！だよね。 シンクロニシティの提唱者、<b>心理学者のカール・ユング</b>もびっくりだろう。</p>
<p>そんなわけで僕は、プライベートでは彼らとせっせと旧交を温め、仕事では膨大な量の<b>声案件</b>をほぼ同時進行でこなさなければならなかった。ふだんの<b>レギュラー仕事</b>に加えてである。 つまり僕は、す<b>べてのオファーを敢然と受けて立った</b>のだ。</p>
<p>働き者のクマのお花屋さんのように、僕は一心不乱に働いた。毎日毎日、<b>指定された時間に指定されたスタジオに出向き、指定された声を丁寧にラッピングしてお届けした。</b>理由はなんであれ、僕の声を必要としてくれた人たちのために。</p>
<p><b>時代がようやく語り人を理解したのか。</b>そんな早合点をするほど僕はお目出度くもないし若くもないよ。長く仕事を続けているとこんなことはたまにある。これをもって<b>「運気が上向いている」</b>などとは思わない。<b>「運気が…」</b>これも僕の嫌いな物言いのひとつだ。</p>
<p>だからどうしたかって、つまり、だから僕は<b>「ジョージの伝言」</b>を完結目前にして放り出し、姿をくらませた（居留守を使った）…</p>
<p><b>親しい友人からの飲みの誘い</b>も10回のうち８回はやり過ごした。（はい。２回は行きました）<b>仕事で共演する綺麗な女の子たちと食事に行く誘惑</b>も10回あれば９回は退けた。（はい。１回だけ行きました）<b>好きなお芝居も映画もコンサート</b>も我慢した。（はい。招待券をもらったものは行きました）</p>
<p>なにしろ、<b>働きづめ</b>だった（と思っていただきたい）。<br />
<b>声の表現に埋没する</b>ことが楽しくて心地良くて（いつもそうだけど）、<br />
もうこれだけやっていれば満足だと。<b>申し分のない人生</b>だと。<br />
<b>何が悪い？</b>　僕のことはうっちゃっておいてくれたまえ！</p>
<p>そうして<b>現実生活の諸問題</b>と向き合うことを放棄し、 リアルに僕と関わろうとする人、関わらざるを得ない人たちを蚊帳の外に追いやった。</p>
<p><b>「もういい。自由にしてあげる」</b><br />
これはある人にメールで言われたひと言。</p>
<p><b>大切であるはずの人</b>が去って行こうとするのを引き止めもせず、かといって、<b>今後大切になるだろう人</b>が歩み寄ってくるのを受け止めることもしなかった去年の秋。</p>
<p>そうして年が明けた。<br />
仕事はやり遂げた。会うべき人にも会った。<br />
いまはじめて、僕は休みたいと思っている。<br />
仕事はすべてキャンセル、しばらく休みます、<br />
そう告げようか。でもそれをやってしまうと、<br />
先の保証はない。わかってる。<br />
僕はそんな世界にいる。</p>
<p><b>自分探しの旅</b>に出るかって？<br />
いや、その必要はないし、僕はこの言葉を嫌いだ。<br />
方法は知っている。ただ、つなぎ目を切り替えればいい。<br />
<b>「あっち」の世界から「こっち」の世界に</b>ね。カチャ。</p>
<p>そしてあらためて、僕はこう言わなければならないだろう。</p>
<p><b>「頼むから、僕を自由にしないでくれ」</b></p>
<p><b>ひとりでいることが自由でないことくらい、</b><b> </b><b><br />
</b><b>僕だって知っている。</b></p>
<p>&nbsp;</p>
<p><b>過去からの贈り物（中）</b>につづく</p>
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		<title>第4話6章　きみは悪くない</title>
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		<pubDate>Fri, 21 Aug 2015 04:18:47 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第4話　ジョージの伝言]]></category>
		<category><![CDATA[ジョージ・ワシントン]]></category>
		<category><![CDATA[セラピスト]]></category>
		<category><![CDATA[五輪書]]></category>
		<category><![CDATA[伝統文化]]></category>
		<category><![CDATA[武士道]]></category>
		<category><![CDATA[求道者]]></category>
		<category><![CDATA[精神科医]]></category>
		<category><![CDATA[釈迦に説法]]></category>

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		<description><![CDATA[「語り人、何やってるんだ！」 振り返ると、そこにいたのはジョージではなくニックだった。 「あんた、ひどい怪我をしてるじゃないか！ 肩もやったな。とにかく診療所に行こう」 「だいじょうぶ。それよりどうした？」 「傷の手当て [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>「語り人、何やってるんだ！」<br />
振り返ると、<b>そこにいたのはジョージではなくニックだった</b>。<br />
「あんた、ひどい怪我をしてるじゃないか！<br />
肩もやったな。とにかく診療所に行こう」<br />
「だいじょうぶ。それよりどうした？」<br />
「傷の手当てが先だ。歩けるか？」<br />
「ニック、いいから話してくれ！」<br />
「ジョージのことで知らせがあったぞ」<span id="more-587"></span></p>
<p>（<a href="http://kataribito.net/04/04-5/">5章　「怒りの代償」</a>つづき）</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「ありがとうニック、おかげで助かった」<br />
<b>基地の診療所</b>での治療を終え、<b>ずっと付き添ってくれたニック</b>に僕は礼を言った。</p>
<p>「こう見えて<b>オレらは軍人だ</b>。あのドクターも、こういう怪我の扱いには慣れてるさ」</p>
<p>あのあとすぐジョージのことで知らせが入り、ニックはそれを僕に伝えようと、<b>ジョギングコースを見渡せる芝生の広場</b>に駆けつけた。そこで<b>僕とジョガーの追走劇の一部始終を目撃した</b>らしい。僕が<b>最後の蹴りを決めようとした場面</b>でニックが登場したのは偶然ではなかった。</p>
<p>「あれ以上やると語り人、<b>あんたが加害者になっちまってた</b>ぞ。それにしても<b>胸のすくような見事なキックとパンチ</b>だったな。<b>カラテ</b>か？ 今度オレにも教えてくれよ」</p>
<p>ニックは<b>空手の型</b>の真似をしながら言った。</p>
<p>「それと、いいな語り人。ドクターも言ってたけど、<b>１週間の加療が必要</b>だ。<b>肩の脱臼は癖になりやすい</b>から、しっかり直すんだ。明日も必ずくるんだぞ。午前中ならオレが国境にいるからよ」</p>
<p>心配になって僕は、<b>治療費の支払い</b>と<b>パスポートの提示</b>について確認した。</p>
<p>「それについては心配しなくていい。オレがうまく処理しておく。一度、ジョージと来ただろう。オレが決裁した。<b>あんたは、我々の大事なゲストだ</b>。もう顏パスでいいよ」</p>
<p>「治療費は払うよ」と僕は言った。<b>治療費と薬代を取らない病院はない</b>。</p>
<p>「状況から見てあの<b>ジョガーの男</b>が払うべきだが、あんた名前も聞かないで帰しちゃったじゃないか。それに日本の病院じゃなくてこっちに連れてきたオレの責任だ。まあ、<b>園内の保安</b>については我々も責任を負ってる。細かいことは気にするな。オレの<b>決裁サイン</b>は絶対なんだ」そう言うとニックはダミ声を響かせガハハと笑った。</p>
<p>「僕が<b>かっとなったせい</b>でこんなことになってしまって、迷惑をかけて申し訳ない」僕はニックに素直に詫び、礼儀正しく頭を下げた。</p>
<p>「かっとなっただって？　オレの目は節穴じゃねぇよ。あんたは自分が怪我をさせられながら<b>敵に外傷を負わせないように攻撃していた</b>。それってあれか、<b>武士の情け</b>ってやつか？」</p>
<p>「そんなんじゃないよ。気が弱いだけだ。それに、<b>あの男は敵じゃない</b>」と苦笑いする僕に「<b>戦地じゃ通用しねぇ理屈</b>だな」とニックは片頬で笑って言った。</p>
<p>ニックがかつて<b>湾岸戦争の前線で戦った兵士</b>だということはジョージから聞いて知っていた。いつも陽気なニックだが、<b>この戦争のせいで心を病んでしまった</b>のだという。</p>
<p><b>人の命を奪い、人の身体と心を容赦なく傷つける。それが戦争だ</b>。そして<b>戦争は戦場だけじゃなく、そこらじゅうで日常的に繰り広げられている</b>。</p>
<p>「とにかく、感謝するならジョージにしな。オレはよ、ジョージに頼まれたんだ。<b>あんたに何かあったら助けてやってくれ</b>ってさ」</p>
<p><b>ジョージはニックに、ひとつ頼みごとをしてアメリカに帰って行った</b>。自分がいなくなったら語り人が事情を訊きにくるだろう。語り人は取り乱すかもしれない。<b>気をつけてあげてくれ</b>と。</p>
<p>「ありがとうニック。あなたこそ<b>心優しき戦士</b>だ」<br />
「だから、それじゃあ<b>戦地では通用しねぇ</b>って言ってんだろ」<br />
ニックは苦笑いして頭を掻いた。</p>
<p>「こんなことならやつの<b>セラピー</b>を受けとくんだったな」<br />
ニックは寂しそうな顔をして言った。<br />
「ジョージは<b>セラピスト</b>だったのか？」<br />
「なんだ、知らなかったのか？」</p>
<p>「それじゃあなぜ<b>門衛</b>についてたんだ？ <b>迷彩服</b>を着て」<br />
「ジョージはもともと<b>精神科の医師</b>で、志願して<b>軍医として入隊</b>したんだ」<br />
「軍医？」</p>
<p>「オレたちみたいな<b>外国の基地に駐屯する軍人の心のケアを担当する専門医</b>だよ。門衛はやつが<b>フィールドワーク</b>を望んだんだ。もっともあんたに会ってからは、あんたと話をするのが目的だったんだろうけどな」そう言うとニックはイヒヒと笑った。</p>
<p><b>ジョージが精神科医？　僕はジョージのことを何もわかっていなかった。</b></p>
<p>僕は自分が恥ずかしくなって、回れ右をして歩き出そうとした。「おい、語り人！」ニックの声にハッとしてもう一度回れ右をすると、僕は「明日も頼みます」と言って頭を下げた。</p>
<p>「ところであんた、<b>そんなに英語うまかったか？</b>」背中にニックの声を聞きながら僕はゲートを後にした。</p>
<p>帰り道、人けの少ない<b>森林の遊歩道</b>を痛めた足を引き摺りながら歩いていると、僕の思考はぐるぐる回り始めた。<b>ものを考えるにはやはり歩くのが一番だ。もう二度と走るまい</b>。そんなことを頭の片隅で誓ったりした。</p>
<p>「でも<b>きみはただの精神科医じゃない</b>」そう声に出して僕は言ってみた。すると目の前にジョージがいるような気がした。</p>
<p>ジョージ、<b>きみは知っていた</b>んだね。<b>お父さんが自分の誕生日に亡くなることを</b>。そうだろう？</p>
<p>僕は覚えている。一度<b>お父さんの話</b>をしたとき、きみはとても悲しそうな、絶望的な表情を見せた。あのとき<b>すでに知っていた</b>んだろう？</p>
<p><b>ジョージ・ワシントンを尊敬するきみのお父さん。</b></p>
<p>なぜ、お父さんのそばにいてあげなかった？ <b>お父さんの死を回避させることはきっときみにもできなかった</b>。そうだね？ ひとりでずっと苦しんでいたんだろう。なぜ僕に話してくれなかった？</p>
<p>いや、あの日きみは、おそらく<b>僕に話すつもりだった</b>。少なくとも<b>話したがっていた</b>。それなのに僕は調子に乗って演説をぶった。きみを<b>インチキ霊能者</b>呼ばわりして糾弾した。専門家のきみに向かって、なんて浅薄な論を展開したことか！</p>
<p><b>釈迦に説法</b>。愚かさもここに極まれりだ。僕のほうこそ、鼻持ちならない<b>インチキ探偵にしてエセ心理学者</b>だ。底が透けて見える<b>なんちゃって詩人にしてへっぽこ侍</b>だ。</p>
<p>いつだったかきみは、<b>宮本武蔵の『五輪書』</b>の英訳本の一文を諳んじてみせて、僕を驚かせた。そして<b>日本語の原文</b>を読んでくれと僕にせがんだ。</p>
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<p>「なんて<b>美しい響き</b>なんだ！」ときみは感動をあらわにした。</p>
<p>「これも読んだら？」と、あるとき<b>『武士道』</b>の<b>英語の対訳本</b>をプレゼントすると、きみは目を輝かせて喜んだ。</p>
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<p>僕たちは<b>英語と日本語を交互に音読</b>しては感想を述べ合い、解釈の問題を巡って熱い議論を戦わせたりした。</p>
<p>きみはいまの日本じゃなくて、<b>古き良き日本の伝統文化</b>をよく勉強していたね。僕が舌を巻くほどに。</p>
<p>僕が小さいころから<b>剣道・空手・柔道など武道をたしなんでいた</b>というと、僕のことを「<b>サムライ</b>」と呼んだ。<b>孤独でストイックで求道者のよう</b>だと。</p>
<p>「<b>サムライじゃなくて詩人だ</b>」僕が冗談でそう返すと、きみは<b>『五輪書』も『武士道』も、そのエッセンスにおいてすこぶる詩に近い</b>。<b>12</b><b>世紀ヨーロッパの吟遊詩人は騎士だった</b>。そう得意げに語って僕を感心させた。</p>
<p>ねえジョージ、この10か月間、<b>僕たちは良い友達だった</b>よね。これから<b>もっともっと良い友達になれた</b>よね。</p>
<p>おい、ジョージ！　僕たちは<b>38</b><b>度線をものともせず逢瀬を重ねた恋人同士</b>さながらの親友じゃなかったのか？ <b>もう任務は終わった</b>とばかりに、きみも僕を置いてアメリカに帰ってしまったのか？ <b>僕はまたひとり取り残されるのか？</b></p>
<p>きみと出会ったころ、僕は切なすぎる別離を経験したばかりだった。<b>自分の愚かさと傲慢さ</b>に呆れ果て、<b>人々の無神経さと馬鹿さ加減</b>にうんざりしていた。</p>
<p>そんな僕を、きみはいつも「だいじょうぶ。<b>きみはちゃんと愛したし、ちゃんと愛された</b>。だから後悔しちゃいけない」と言って慰めてくれた。</p>
<p>それなのに僕ときたら<b>自分の傷心</b>にかまけてばかりで、日本に来て間もない、<b>日本が大好きだというきみにちゃんと優しかった</b>だろうか。</p>
<p>ジョージ、<b>孤独なのはきみのほうだった。恐くて震えていたのはきみのほうだった。</b><b> </b><b>本当は人が恐くて、世間が恐くて、そしてそれ以上に自分を恐がっていたのはきみのほうだった。</b></p>
<p><b>きみは自分のことを多くは語りたがらなかった</b>。それは<b>セラピストとして僕に接していたから？</b> 僕が何か聞き出そうとすると「語り人のことをもっと知りたい」そう言って僕の話を引き出しては「<b>きみは何も悪くない</b>」と<b>僕の中に根強く巣食う罪悪感</b>を溶かしてくれた。</p>
<p>ああ、どうしてきみは、ひと言の侘びも言わせないまま行ってしまったの？<br />
僕にも言わせてくれ。「<b>ジョージ、きみは何も悪くない！</b>」</p>
<p>僕がいま<b>ものすごくきみに会いたがってる</b>って知ってるよね。だってきみは、<b>僕のこと何だって知ってるじゃないか！</b><b> </b><b>違う？</b></p>
<p>ジョージ、ニックから聞いたよ。<b>正式に除隊した</b>そうだね。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><b>（７章につづく）</b></p>
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		<title>第4話5章　怒りの代償</title>
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		<pubDate>Fri, 14 Aug 2015 06:18:16 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第4話　ジョージの伝言]]></category>
		<category><![CDATA[ジョガー]]></category>
		<category><![CDATA[ジョギングコース]]></category>
		<category><![CDATA[ドーベルマン]]></category>
		<category><![CDATA[喧嘩]]></category>
		<category><![CDATA[建国記念日]]></category>
		<category><![CDATA[達筆すぎる]]></category>

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		<description><![CDATA[「そのとおりだ。違わないよ。それにしても見事な演説だ！」と拍手をしながら言った。「語り人にはかなわないね。きみこそ、何でもお見通しってわけだ」 ジョージの顏を見たのは、それが最後だった。 （4章「言葉の力」のつづき） &#038; [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>「そのとおりだ。違わないよ。それにしても見事な演説だ！」と拍手をしながら言った。「語り人にはかなわないね。きみこそ、何でもお見通しってわけだ」<br />
ジョージの顏を見たのは、それが最後だった。<span id="more-579"></span></p>
<p>（<a href="http://kataribito.net/04/04-4/">4章「言葉の力」</a>のつづき）</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「最近、ジョージの姿を見かけないけど」</p>
<p>ジョージを<b>ペテン師</b>呼ばわりしたことを謝りたくて、僕は毎日ゲートに足を運んだ。でも、そこにジョージの姿はなかった。</p>
<p>一週間が過ぎ、僕はたまらなくなって<b>古参の米兵ニック</b>に声をかけた。</p>
<p>「ああジョージのやつね、<b>親父さんが亡くなった</b>そうで、国へ帰っちまった」<br />
僕はびっくりして、それはいつのことかと尋ねた。</p>
<p>「覚えてるよ。<b>７月４日</b>。わが<b>ザ・ステイツの建国記念日</b>。そして<b>ジョージの誕生日</b>だよ。親父さんはその日に亡くなったそうだ。翌日、ジョージは帰ってったよ」</p>
<p>そういうとニックは急に何かを思い出したらしく大声を上げた。<br />
「おっと、いけねえ！忘れるところだった。<b>ジョージからあんた宛の手紙を預かってた</b>んだ。すぐ持ってくるから、ちょっと門番でもして待っててくれ。でも中には入らないでくれ。こっちはザ・ステイツだからよ」</p>
<p>手紙を持って小走りで戻ってくると、ニックはにやにやしながら言った。</p>
<p>「<b>ジョージはあんたのことが大好きだった</b>んだな。知ってるかい、あんたが来たらすぐ呼び出してくれって、いつもみんなに指令をかけてたんだよ。もしかしてあれか、ジョージとはそういう仲だったのか？　いつも楽しそうに二人で喋ってたよな」</p>
<p>ニックを無視して僕はその場で封を切った。<b>&#8220;To my dearest friend&#8221;</b><b>で始まる</b><b>達筆すぎる手書き文字</b>が目に飛び込んできた。読むまえにどうしても確認しておきたいことがあった。</p>
<p>「ねえ、もっと教えてくるかい。その日、ジョージの様子はどうだった？」<br />
ニックは怪訝な顔をしてみせたが、どうやら喋りたかったようで詳しく話してくれた。</p>
<p>「みんなでやつの<b>バースデーパーティー</b>を開いたんだけどさ、ジョージのやつ心ここにあらずって感じでよ、<b>ずっと暗い顔をして十字を切っては溜息をついてやがった</b>。主役がそんなんじゃ意味ねえだろ。日本人のいう、なんだ？　そう礼儀だ。 礼儀がなっちゃいない。そうだろう？　まあ、ふだんからへんてこりんな男だったけどな。 だから小一時間で切り上げた。やつを置いて、別の部屋で飲みなおした。今度はわが<b>ザ・ステイツを祝って</b>な。その間に国から知らせが届いたみたいだな」</p>
<p><b>一週間前の７月４日。僕がジョージを傷つけた日。<br />
</b>ニックの話を聞きながら、僕は無性に腹が立ってきた。</p>
<p>ニックに腹を立てているのか、自分に腹を立てているのか、とにかく<b>込み上げてくる怒りの衝動</b>を抑えるのがやっとだった。そのあと無性に悲しくなって、その感情は涙となって眼前を曇らせた。</p>
<p>「語り人、あんた泣いてるのか？」<br />
「ニック、もうひとつだけ教えてくれ。<b>ジョージのお父さんの死因</b>は何だ」</p>
<p>「よくは知らないけど、なんでも<b>突然死</b>だったらしいよ」<br />
「突然死？　それまではぴんぴんしてたってこと？」</p>
<p>「だろうな、少なくとも病気で寝込んでたって話は聞いてねぇよ。それより語り人、<b>あんたジョージと何かあったのか？　手紙にはなんて書いてあるんだ？</b>」</p>
<p>「ジョージは戻ってくるのか」<br />
「わかんねぇよ、そんなこと。ていうか、<b>オレたちにまだ報告はない</b>」</p>
<p>もういい、もうじゅうぶんだ。<br />
「ジョージのことで何かわかったらすぐ知らせてくれ」そう言い残して、僕は足早にその場を離れた。</p>
<p>「おい、<b>人にものを尋ねたら、ありがとうって言う</b>んだろ。それが礼儀ってもんだろう！ おい語り人、あんたが教えてくれたことだろ！」</p>
<p>ニックのダミ声を背中に浴びながら、僕は逃げるように走り去った。</p>
<p>そのまま<b>ジョギングコース</b>に突入し、ひたすら走った。走らずにはいられなかった。いつもは<b>ジョガーたちに追い抜かれても悠然と歩いていた</b>僕が。走りながら涙がとめどなく溢れ出た。苦しかった。<b>こんな心臓、破裂してしまえばいい</b>と思った。</p>
<p><b>許せ、ジョージ。ひどいことを言った僕を。<br />
</b><b>いやジョージ、僕を許すな。</b></p>
<p>きみはずっとあんなことを言われ続けてきたんだよね。それを<b>理解者であるはずの僕まで</b>…。</p>
<p>わかってる。<b>きみの能力はあんな小賢しい理屈で説明できるものじゃない</b>。ほんの冗談のつもりだった。だけど<b>きみには絶対言ってはいけなかった冗談</b>。しかもきみの誕生日に。あろうことかお父さんが亡くなる日に！</p>
<p>なぜあんなふうに言ってしまったんだろう。<br />
きっと僕は、<b>きみと喧嘩がしたかった</b>んだ。</p>
<p>自分のことを恐くないかって、きみはいつになく真剣に訊ねた。<b>本当は恐かったのかもしれない。きみのことが</b>。あんなに無邪気で、優しくて、思いやりに溢れるきみのことが。<b>そんなきみと喧嘩する必要がいったいどこにある？</b><b></b></p>
<p>走っても怒りは無くならなかったし、悲しみは１グラムも減らなかった。</p>
<p>走ることは僕にとって、<b>追いかけることであり逃げること</b>だった。僕は追うのも逃げるのも嫌だった。<b>走ることは自分への罰</b>だ。</p>
<p>ジョギングコース１キロ地点あたりで、ひとりのジョガーに追い抜かれた。ときどき見かける<b>30</b><b>歳代前半のジョガールックに身を包んだ筋肉質の男</b>で、男は追い抜きざま「邪魔だ。おめえは歩いてろ」と放言した。</p>
<p><b>いつも歩いているのになぜか滅茶苦茶に走っている</b>僕が目障りで、悪態をついたのだと理解できた。咄嗟に僕は「黙れ！」と返した。</p>
<p>男は５メートル先で速度を緩めると、後ろから猛スピードで走ってくる僕の足に素早く自分の足を引っかけた。<b>不意をくらわされ体勢を崩された僕の身体はもんどりうって前方に投げ倒された</b>。</p>
<p><b>受け身をして顔面と頭は守った</b>が地面はコンクリートだ。受け身をした左肘から肩にかけて鈍い痛みが走った。</p>
<p><b>僕の中の怒りの衝動はまだ消えていなかった</b>。平然と走り去る男を全速力で追いかけた。追いかけられていることに気づくと男はスピードを上げた。<b>ウォーカーの僕にジョガーの自分が負けるはずがない</b>と思ったのだろう。</p>
<p><b>左肘は皮膚が擦り剥け血にまみれた白い骨が露出していて、肩は激しい打撲のため痛みで動かない</b>。それでも僕は男を追って走った。至近距離まで追い詰めると、間合いを見定め男の背中に<b>強烈な飛び蹴り</b>を浴びせた。</p>
<p><b>コース内側の芝生の広場</b>に男は吹っ飛び、そのまま転がり落ちた。コンクリート地面に倒れ込まないように<b>蹴りの角度を調整する冷静さ</b>は、僕にもまだ残っているようだった。</p>
<p><b>男に怪我はないはずだ</b>。飛び蹴りを決めた僕のダメージのほうが大きかった。着地の衝撃で足首を痛めたようだ。これで逃げおおせるとみて男は再び走り出した。<b>もう追いかけられない！</b>僕が観念したそのときだった、男の前に長いリードに繫がれたドーベルマンが飛び出してきた。それを避けようと男は体勢を崩した。</p>
<p><b>不自然な転び方</b>をしたので足をくじいたのだろう。男は立ち上がることができなかった。僕は使い物にならなくなった左腕をかばいながら、ゆっくり男に近づいた。そして<b>恐怖に慄く表情</b>で僕を見ている男に「立て」と命じた。</p>
<p>「悪かった」と男は言った。<br />
「いいから立て」もう一度低い声で命じた。</p>
<p>恐る恐る立ち上がった男のみぞおちに、僕は腰を落とし無言で<b>中段の正拳突き</b>を食い込ませた。立ったばかりの膝は崩れ落ち、男は両手で腹を押さえたまま前のめりに蹲った。</p>
<p>「これがさっきおまえがやった<b>不意打ち</b>だ」と僕は男に言った。「危ないよ。頭を打ってたらどうなってたと思う？」</p>
<p>すでに戦意は喪失していたが、僕の怒りはまだ収まっていなかった。ジョージに対する<b>世間の無理解</b>が許せなかった。ジョージに<b>言葉の力を悪用</b>した自分が許せなかった。そしてこの男の<b>堪え性のない軽率な悪意</b>が許せなかった。</p>
<p>「ほら、立てよ」と言うと、男は泣き出した。口から涎を垂らしながら「もう勘弁してください」と許しを乞うた。</p>
<p><b>とどめを刺すつもりはなかった</b>。損傷を受けた左腕の代償を求めようと、<b>四つん這いになっている男の左腕を蹴り上げようとした</b>そのときだった。背後から英語で僕を呼ぶ声が聞こえた。<b>ジョージ？　ジョージなのか？</b></p>
<p>「語り人、何やってるんだ！」<br />
振り返ると、<b>そこにいたのはジョージではなくニックだった</b>。<br />
「あんた、ひどい怪我をしてるじゃないか！ 肩もやったな。とにかく診療所に行こう」</p>
<p>「だいじょうぶ。それよりどうした？」<br />
「傷の手当てが先だ。歩けるか？」<br />
「ニック、いいから話してくれ！」<br />
「ジョージのことで知らせがあったぞ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（<b>６章につづく</b>）</p>
]]></content:encoded>
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		<title>第4話4章　言葉の力</title>
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		<pubDate>Fri, 07 Aug 2015 12:50:18 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第4話　ジョージの伝言]]></category>
		<category><![CDATA[ニコラス・ケイジ]]></category>
		<category><![CDATA[不思議な能力]]></category>
		<category><![CDATA[将来設計]]></category>
		<category><![CDATA[英語脳]]></category>
		<category><![CDATA[言語脳]]></category>
		<category><![CDATA[超常的]]></category>

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		<description><![CDATA[大きくなった僕は、アメリカ人と喧嘩するどころかアメリカンガールに恋をして失恋して、そして今は変な米兵に弱みを見せまくり、やつといることに奇妙な安らぎさえ覚えるていたらくだ。そんな軟弱な息子を、父は天国から苦々しい思いで見 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>大きくなった僕は、アメリカ人と喧嘩するどころか<b>アメリカンガールに恋をして失恋して</b>、そして今は<b>変な米兵に弱みを見せまくり、やつといることに奇妙な安らぎさえ覚えるていたらく</b>だ。そんな軟弱な息子を、父は天国から苦々しい思いで見ているのだろうか。<span id="more-571"></span><br />
（<a href="http://kataribito.net/04/04-3/">3章「日本のアメリカ」</a>）のつづき）</p>
<p>年が明けても僕たちは二日とあけず顏を合わせた。</p>
<p><b>基地のゲートを挟んで向かい合って言葉を交わす</b>。１時間以上話し込むこともあれば、2.3分で切り上げざるを得なかったり、ただ笑顔を交わすだけの日もあった。ジョージだって仕事をしているのだ。もちろん僕だって少しは忙しい。</p>
<p>おもしろいのは、目の前にいるのに<b>ジョージがいるところはアメリカで、僕がいるところは日本</b>ということだった。ジョージはそれをネタにした。</p>
<p>「僕たちは<b>38</b><b>度線に阻まれた恋人同士</b>みたいだね」<br />
「<b>問題発言を含む笑えないジョーク</b>だ」<br />
「毎日のように会いにきてくれるじゃないか」<br />
「きみこそ、いつも僕を待ってるじゃないか」</p>
<p>そうだよ。僕は毎日ジョージに会いたかった。初めて会った日、彼が予言したとおり、たしかに<b>僕はジョージを求めていた</b>。</p>
<p>それと同時に<b>男女の恋愛問題や、そこから派生する将来設計</b>といった煩わしい問題から自由になっていた僕は、ひたすら仕事に専心した。<b>声と言葉の力だけを信じて</b>。</p>
<p>どんな案件も気を抜くことなく全身全霊で打ち込んだ。以前は「<b>いい声ですね</b>」としか言われなかった収録現場で「<b>鳥肌が立ちました</b>」と言われるようになった。これって褒め言葉だよね？</p>
<p>自分で選択して飛び込んだ業界。<b>プロでも食べていけるのは３％といわれる、努力が報われることの極めて少ない業界</b>。<b>免許も資格もなく、仕事の保証などどこにもないリスキーな業界</b>。すでにベテランに仕分けされるほどの年月を、僕はここで闘ってきた。</p>
<p>ジョージと出会う前、プライベート面ばかりか仕事面でもスランプに陥っていた僕は、<b>自分の居場所</b>も<b>自分の言葉</b>さえも見失っていた。台本を読んでも言葉が上滑りして、何を読んでいるのかさっぱりわからない始末だった。</p>
<p>それがジョージと会話することで、僕の<b>言語脳</b>はどんどん研ぎ澄まされていった。<b>英語脳を活性化させた</b>ことが大きかったと思う。また英語を喋ることで、<b>日本語の発声</b>はこれまでにない響きを獲得していた。</p>
<p>そして何より、ジョージは<b>国境の向こう側</b>でいつも僕を待ってくれていた。<br />
<b>利害関係も力関係もない</b>。その純粋性が、僕を幸せな気持ちにしてくれた。<br />
<b>僕は独りだったけど一人じゃなかった。孤独だったけど寂しくはなかった。</b></p>
<p>そうして、引き籠るにはうってつけの<b>冬が終わり</b>、僕にとってはいささか面映ゆい<b>春が過ぎ</b>、恵みの<b>雨季がやってきた</b>。僕はこの季節が好きだ。ジョージにあげようと庭に咲くガクアジサイを何本か摘み、雨の中カッパを着て国境のゲートに向かった。</p>
<p>その日、ジョージの表情は暗かった。<br />
「語り人、<b>きみは僕のことが恐くないのか？</b>」<br />
「いきなりどうしたんだ？」<br />
「……」ジョージは黙ったまま俯いた。<br />
「きみの<b>不思議な能力</b>のこと？」</p>
<p>僕は<b>突出した本物の能力</b>に対してはそれが非常に特殊なもの、たとえば<b>超常的なもの</b>であれ<b>脳障害がもたらすもの</b>であれ、<b>畏敬の念をもって素直に受け止める公正さ</b>は持ち合わせているつもりだった。</p>
<p>「あのさ、世の中にはいろんな人がいるよ。何桁の数字もたちどころに暗記してしまう人。一度聴いた楽曲を正確に再現できる人。<b>絶対音感</b>を持っている人はどんな音もドレミで聴こえるそうだ。これは恐いことだと思うよ。どこにいても雑多な音が溢れていてさ、気軽に街も歩けやしない。もっと言おうか？」</p>
<p>「もういいよ。ありがとう」 ジョージの顔に輝きが戻った。「語り人がわかってくれればそれでいいんだ」<br />
「あのさジョージ、何が視えても、もう余計なことを言っちゃダメだよ。また誰かに苛められた？」<br />
「まあ、慣れてるけどね…」<br />
図星だったようだ。</p>
<p>落ち込んでいるジョージを見ていると、僕の中で唐突に悪戯心が湧き起った。ジョージと親しく話をするようになって10か月、僕の<b>英語脳</b>は大学生レベルまでには戻っていたと思う。だから僕は、きっと調子に乗っていたんだ。</p>
<p>「ああ、そうだよジョージ。僕はわかってる。きみの<b>能力の正体</b>をね」</p>
<p><b>名探偵</b>にでもなったつもりだったのか、僕は芝居っ気たっぷりに言ってみた。</p>
<p>「きみの能力は<b>簡単な心理学</b>だよ。つまりきみは、<b>人の顔色を読み取る能力</b>にとても優れている。それともうひとつ、きみは<b>話の誘導</b>が実にうまい。人の感じやすい部分をピタリと言い当ててるみたいだけど、でも本当は<b>多くの情報を相手の話の中から巧みに引き出している</b>」</p>
<p>僕はたぶん、自分の<b>言葉の力</b>を試そうとしていた。</p>
<p>「たとえばきみは、僕の仕事を言い当てようと<b>ニコラス・ケイジの言葉</b>を引用したね。<b>それは役者の言葉だ</b>と僕はいなした。するときみは、すぐに<b>表現者</b>と言い換えた。<b>人は誰もが表現者</b>だよ。またきみは、相手の何かを指摘したあと『違う？』と確認を促す。人はこの<b>念押し確認</b>に弱いんだ。『そのとおりだ。違わない』となる。これらは<b>心理学の誘導法</b>で説明できる」</p>
<p>芝居なのか芝居じゃないのか、もうわからない。僕は自分を止めることができなかった。</p>
<p>「もっと言おうか。僕がボストンの女の子と付き合った事実は、<b>僕の英語を聴けばわかる人にはわかる</b>ことだよ。アメリカに行ったことがないのは、<b>僕の英語がその子の影響しか受けていない</b>ことから容易に判断できるだろう。<b>僕の話す英語が</b><b>30</b><b>年前と変わっていない</b>からだ。つまり<b>僕の英語脳は青臭い</b><b>19</b><b>歳のまま成長が止まっている</b>ということ。そこで身長がぴたりと止まったみたいにね。きみはそれに気づいた」</p>
<p>ひと呼吸置いて、僕は自嘲するように続けた。</p>
<p>「ていうか、僕はうっかりヒントをあげちゃったよね。<b>もう四半世紀以上、まともに英語を話していない</b>って」</p>
<p>そうして僕は、泣きそうになりながら<b>言葉の銃口</b>をジョージに向けると、とどめを刺した。</p>
<p>「<b>それがきみの能力の正体だ。インチキ教祖とかエセ霊能者がよく使う手口だよ。違う？</b>」</p>
<p>ジョージは呆気にとられたような顔で目を見開いて僕を見ていたが、一瞬だけ悲しげな、困ったような微笑を浮かべた。そして文字どおり瞬きをする間に普段の笑顔を取り戻すと、今度は声をあげて笑った。</p>
<p>「そのとおりだ。違わないよ。それにしても見事な演説だ！」と拍手をしながら言った。「語り人にはかなわないね。きみこそ、何でもお見通しってわけだ」</p>
<p>ジョージの顏を見たのは、それが最後だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（５章につづく）</p>
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		<title>第4話3章　日本のアメリカ</title>
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		<pubDate>Mon, 03 Aug 2015 06:32:38 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第4話　ジョージの伝言]]></category>
		<category><![CDATA[アメリカンガール]]></category>
		<category><![CDATA[強迫観念]]></category>
		<category><![CDATA[治外法権]]></category>

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		<description><![CDATA[それにしても、この黒人にしては華奢でハンサムな男は、いったい何者なのだ。僕の過去や現在が視えるとでもいうのか。「たしかに視えている」としかいいようのない事態に、僕はひどくうろたえた。 （2章　遠いアメリカのつづき） ジョ [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>それにしても、この黒人にしては華奢でハンサムな男は、いったい何者なのだ。僕の<b>過去や現在が視える</b>とでもいうのか。「<b>たしかに視えている</b>」としかいいようのない事態に、僕はひどくうろたえた。<span id="more-566"></span></p>
<p>（<a href="http://kataribito.net/04/04-2/">2章　遠いアメリカ</a>のつづき）</p>
<p>ジョージは<b>僕のことをよく知っていた</b>。<br />
これまで<b>僕の身に起こったいくつかの重大な出来事や選択した物事</b>、あるいはまた、<b>三日後に起こるであろうハプニング</b>などを次々に言い当て、僕を驚かせた。</p>
<p>あるときなんかは、<b>翌日起こるはずだったいささかやっかいなトラブル</b>を、ジョージの忠告のおかげで未然に回避することさえできた。けれども、僕はジョージに苦言を呈した。</p>
<p>「教えてくれたことには感謝してるよ。でも、もう言わないでくれるかな。自分で解決したいんだ。<b>何が起こるかわからないのが人生</b>だろ？　<b>僕はこの人生を修行の場だと思ってる</b>んだ」</p>
<p>「修行の場か。<b>どんな経験も甘んじて受ける</b>。語り人らしいね。みんな僕を利用するか、気味悪がって逃げていくかどっちかなのに」</p>
<p>それからというもの、僕たちは会えば肩を叩き合い、いろいろな話をするようになった。ジョージの屈託のない笑顔を見ていると心が軽くなり、気づけばいつのまにか、誰にも言えないようなことまで打ち明けていた。</p>
<p>12月、<b>街がクリスマスの狂騒に包まれる浮かれた季節</b>がやってきた。それは<b>年に一度決まって襲ってくる強迫観念の発作</b>のように僕には思えた。</p>
<p>そんなとき、ジョージの特別な計らいで<b>米軍基地</b>に招待された。</p>
<p>そこは<b>横浜市民</b>とはいえ、おいそれと日本人（外国人）が立ち入ることは許されない領域。僕たち住民が「<b>フェンスの向こう側</b>」と呼ぶ未知のエリアだ。その意味でここもまた、<b>近くて遠いアメリカ</b>だった。</p>
<p>「<b>入国</b>」するためには、まずは日本を「<b>出国</b>」しなければならなかった。パスポートを持ってくるようジョージに言われたときはびっくりしたが、考えてみれば当然といえば当然のことだった。</p>
<p>たしかに<b>そこはアメリカ</b>だった！</p>
<p>住宅棟とは別に野球やサッカーができるグラウンド、室内のトレーニングジムにプール、テニスコートも三面ある。アメリカの食品や日用品などを揃えたスーパーマーケットもあった。</p>
<p>戸外でバーベキューパーティーが頻繁に行われているらしく、道具類が散乱するスペースがあちこちにあった。そんなところも<b>いかにアメリカ</b>だった。</p>
<p>驚いたのは……いや、やめておく。<b>フェンス内は治外法権</b>とはいえ、機密事項に抵触する恐れがある。これ以上の描写は控えるとしよう。</p>
<p>ジョージに連れられ広大な基地内を見学しながら、僕は父のことを思い出していた。むかし父が言った言葉を。</p>
<p>「<b>日本は戦争に負けるわけだ</b>」</p>
<p>1960年代初頭、僕の父は仕事で山口県の<b>岩国基地</b>を訪れた。「<b>そこはまさに別世界だった</b>」。そんな話を、のちに小学校高学年のころ聞かされたことを覚えている。</p>
<p>「当時の日本人が、新しい生活の象徴といわれた<b>三種の神器</b>（白黒テレビ・冷蔵庫・洗濯機）を持つことが夢だった時代、そこには、<b>日本のアメリカにはぜんぶがあった</b>」と父は言った。</p>
<p>広いリビングには巨大な冷蔵庫にカラーテレビまである。靴を履いたまま室内に通された父は、<b>ある種の罪悪感とともに圧倒的な敗北感を味わった</b>という。</p>
<p>何がきっかけで父がそんな話をしたのかは覚えていないが、ふだん子どもとろくに言葉も交わさなかった昭和ひと桁生まれの厳格な父が、珍しく上機嫌で饒舌だったことが僕には嬉しくもあり、記憶に焼き付いているのだ。</p>
<p>「いいか、よく覚えておけ」と父は少し怖い顔をして言った。「父さんは<b>アメリカが嫌いだ</b>。でも<b>喧嘩するにはやつらの言葉が必要だった</b>。もっとも父さんは、追従笑いをしてペコペコ頭を下げてばかりで、喧嘩もできやしなかった。<b>おまえは大きくなったら、やつらと対等に喧嘩しろ</b>」</p>
<p>大きくなった僕は、アメリカ人と喧嘩するどころか<b>アメリカンガールに恋をして失恋して</b>、そして今は<b>変な米兵に弱みを見せまくり、やつといることに奇妙な安らぎさえ覚えるていたらく</b>だ。そんな軟弱な息子を、父は天国から苦々しい思いで見ているのだろうか。</p>
<p>「因縁浅からぬ話だね。半世紀以上の時を経て、父に継いで息子が<b>日本のアメリカに降り立った</b>わけだ」僕の話に頷きながら耳を傾けていたジョージが感慨深げに言った。</p>
<p>「まるで月に降り立ったみたいな言い方だな」僕がそう返すと、<br />
「まあ、そのようなもんだろ」とジョージは笑いながら言った。</p>
<p>「語り人、きみは<b>もう一生アメリカに行くことはない</b>と思ってた。違う？」<br />
「違わないよ」僕は素直に認めた。</p>
<p>「<b>アメリカと日本が辿ってきた歴史</b>はともかく、きみは今まさにアメリカにいる。アメリカにきたんだよ。こんな<b>効率的な体験</b>ってあるかい？」<br />
「効率的ではあるけど<b>感動的とはいえない</b>な。パスポートを出したのに飛行機にも乗ってないんだよ。まるで<b>どこでもドア</b>から入ってきたみたいだ」</p>
<p>「どこでもドア？」<br />
「うん。<b>ドラえもん</b>。アニメ・映画にもなっている<b>日本が誇る国民的マンガ</b>」<br />
「おお、ドラえもん！ ここの子どもたちも大好きだよ。未来からやってきたネコ型ロボットだろ」</p>
<p>僕は<b>ドラえもんの道具</b>をいくつか説明してあげた。ジョージは興味しんしんといった様子で聴いていたが、どうやらひとつの道具にしか興味がないようだった。僕の下手くそな英語のせいかもしれない。</p>
<p>「どこでもドアか、それがあればなあ」。溜め息まじりにそう言うと、やがて下を向いてぽつんと呟いた。「結局、僕は<b>誰ひとり救えない</b>んだ」</p>
<p>このときどうしてジョージの心情に寄り添ってあげることができなかったのか。こんな意味深長な言葉をどうして僕はやり過ごしたのか。もっと自分に余裕があったら、もっと英語で深くものを考えられたら……。今となっては悔やまれてならない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（3章につづく）</p>
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		<title>第4話2章　遠いアメリカ</title>
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		<pubDate>Tue, 21 Jul 2015 12:06:27 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第4話　ジョージの伝言]]></category>
		<category><![CDATA[BBC英語]]></category>
		<category><![CDATA[ニコラス・ケイジ]]></category>
		<category><![CDATA[ベルベットボイス]]></category>
		<category><![CDATA[ボストン]]></category>
		<category><![CDATA[交換留学生]]></category>

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		<description><![CDATA[「そんなに悲しいのは、本気で愛したからでしょ？」 「それ、どういう意味？　僕に言ってるの？」 「ほかに誰がいる。だいたい、きみが僕を呼んだんだよ」 「なに？　呼んだ覚えはないけど」 「じゃあ、きみが僕を求めた、と言い換え [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>「<b>そんなに悲しいのは、本気で愛したからでしょ？</b>」<br />
「それ、どういう意味？　僕に言ってるの？」<br />
「ほかに誰がいる。だいたい、<b>きみが僕を呼んだ</b>んだよ」<br />
「なに？　呼んだ覚えはないけど」<br />
「じゃあ、<b>きみが僕を求めた</b>、と言い換えようか」</p>
<p>そう言うと男は、その無邪気な笑顔に真っ白な歯を添えた。<br />
それがジョージとの最初の出会いだった。<span id="more-558"></span></p>
<p>（<a href="http://kataribito.net/04/04-1/">1章「米兵ジョージ</a>」のつづき）</p>
<p>最初に言ったように、僕の<b>ウォーキングコース</b>はこの公園だけじゃない。ここに来るのは週２～３回。曜日も時間もばらばら。ジョージが門衛につくローテーションも知らない。でも<b>なぜかいつもジョージの姿はそこにあった</b>。</p>
<p>彼の名前を知ったのは２回目に会ったときだった。</p>
<p>「日本人みたいだろう」と言って白い歯を見せた。<br />
「ジョージ・ワシントン」と僕は言ってみた。<br />
「ああ、尊敬している。親父がね」<br />
「君は違うの？」<br />
「わからない。時代が違うしね」<br />
ジョージの表情が一瞬、曇った。</p>
<p>「ところで、聞かせてくれるかな」<br />
最初に彼が放った<b>言葉の真意</b>を知りたかった。</p>
<p><b>そんなに悲しいのは、本気で愛したからでしょ？</b></p>
<p>彼が看破したとおり、そのときの僕は<b>生涯守り抜くはずだった人との別れ</b>を経験したばかりで、我と我が身を責め苛んでいた。</p>
<p>「きみに<b>ニコラス・ケイジの言葉</b>を贈るよ。<b>『僕は本気で愛して失恋したい。欲しいのはその経験だ』</b>」そういうとジョージはにっこり笑った。</p>
<p>「それは<b>役者の言葉</b>だろう」僕は少し投げやりな口調で言った。<br />
「きみは違うの？」ジョージは首を傾げた。<br />
「……」<br />
「役者だけじゃない。表現者の宿命だ。<b>魂は経験によってのみ磨かれる</b>んだ。好むと好まざるとにかかわらずね。きみはいつだって<b>あまり賢明とはいえない、あまり効率的とはいえない経験</b>を好んで求めた。違う？」</p>
<p>ちがうちがう、そうじゃない。<br />
ちがうちがう、…ちがわない。<br />
たしかに僕にはその傾向が強くある。</p>
<p>「<b>僕が君を求めた</b>って、どういうこと？」<br />
「そのうちわかるよ。ところで、まだ名前を聞いてなかったと思うけど」<br />
「失礼」と言って、僕はファーストネームを名乗った。</p>
<p>「わお、グレイト！　君は日本一の人なのか！」<br />
「名前だけだ。だから語り人と呼んでくれ」と僕は言った。</p>
<p>それから僕たちは、自分の名前にまつわる悲喜こもごもの歴史、簡単にいうと<b>名前で得したこと・損したこと</b>などを面白おかしく披露し合った。</p>
<p>ジョージの英語は<b>西海岸で話される標準的な米語</b>で、正確で訛りもない。とはいえ相当な早口で、脳が言葉の意味を咀嚼するのに少なからず時間を要した。まともに英語を話さなくなってから四半世紀になる。だから<b>噛んで含めるように話してくれ</b>と頼んだ。</p>
<p>「君の英語は若々しくて美しいよ。<b>東海岸</b>だね。<b>学園都市</b>。そう、<b>ボストン</b>の香りがする」とジョージはゆっくり刻むように言った。「でも君は、<b>アメリカには行ったことがない</b>、だろう？」</p>
<p>たしかに僕はアメリカに行ったことがない。これまで幾度となく渡米の機会は巡ってきたが、なぜかいつもすんでのところで邪魔が入り計画は頓挫した。</p>
<p>でも、なぜわかる？<br />
「でも、<b>ボストンから来た女の子</b>と付き合ったことがある、違う？」</p>
<p>もうわかったよ。そうだ。大学生のとき僕の通う大学に、ボストンの大学から<b>交換留学生</b>としてやってきた女の子がいた。彼女の<b>お世話係</b>を任されたのが事の始まりだった。</p>
<p><b>僕たちはたちまち惹かれ合った。</b><b></b></p>
<p>彼女の屈託のない笑顔と、その笑顔を裏切る<b>愁いを帯びたベルベットボイス</b>に、僕は一発でやられてしまった。<b>利発というより聡明で、活発というより思慮深い彼女</b>に夢中になった。</p>
<p>ポップなリズムでまくしたてる鼻にかかったべちゃっとした米語ではなく、どちらかといえば<b>BBC</b><b>英語</b>に近いがそれでいてスノッブさを感じさせない、<b>クラシカルで気品のある英語を話す彼女</b>に恋をした。</p>
<p>そして彼女は、僕の黒い瞳と黒い髪が好きだと、ギターを弾くその指と、優しくて深い声、本を読んでいるときの横顔が好きだと言った。</p>
<p>そのくせいつも「<b>本と私、どっちが好きなの！</b>」と駄々をこねては僕の手から本をひったくり、そうして僕が教えた日本語「<b>書を捨てよ、町へ出よう</b>」をしつこく何度も復唱し、いやがる僕を外へ引っ張り出した。</p>
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=amebablog05d-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4041315220&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>
<p><b>僕たちは文字どおり恋に落ちた。魂の物理法則に従って。</b><b></b></p>
<p>一年という留学期間は、<b>恋という熱病に侵された二人</b>にはあまりに短すぎた。僕たちは、どちらかがどちらかの国に住むという選択肢を真剣に話し合った。日本かアメリカか…。離れたくない思いは一緒だったはずだ。</p>
<p>「やっぱりあなたが交換留学生としてボストンにきて！ そうすれば少なくともあと一年は一緒にいられるわ」</p>
<p><b>少なくともあと一年？</b><br />
彼女は&#8221;long time&#8221;でも&#8221;forever&#8221;でもなく&#8221;at least one more year &#8221; と言った。彼女のこの言葉に、19歳の僕は勝手に傷ついたことを覚えている。</p>
<p>結果的に僕は交換留学生の資格を得ることは出来なかったし、彼女も期間を超えて日本に留まることは許されなかった。<b>アメリカは、僕にとってこんなにも近いのに、こんなにも遠かった。</b></p>
<p>「うん、そのときも辛い別れだったよね。<b>僕たちは選べないんだよ。恋の始まりも、終わりもね</b>」と、ジョージはまるで「両手の指は10本だよね」みたいな、それが当然であるような言い方をした。</p>
<p>「しかたないさ。二人はまだティーンエイジャーだったし、おとなが決めたことに従うしかなかったんだから」</p>
<p>もう三十年も前のことなのに、僕の中の忘れていた感情が、舌が酸味の刺激を敏感に捉えるように甦ってきた。 それを追い払おうと、僕は激しく頭を振った。</p>
<p>それにしても、この黒人にしては華奢な体型のハンサムな男は、いったい何者なのだ。僕の<b>過去や現在が視える</b>とでもいうのか。「<b>たしかに視えている</b>」としかいいようのない事態に、僕はひどくうろたえた。</p>
<p><b><br />
（３章につづく）</b></p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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		<title>第4話1章　米兵ジョージ</title>
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		<pubDate>Wed, 15 Jul 2015 11:44:37 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第4話　ジョージの伝言]]></category>
		<category><![CDATA[ウォーキングスピード]]></category>
		<category><![CDATA[ジョギング]]></category>
		<category><![CDATA[ダイエット]]></category>
		<category><![CDATA[バリトン]]></category>
		<category><![CDATA[健康]]></category>
		<category><![CDATA[根岸森林公園]]></category>
		<category><![CDATA[驚嘆]]></category>

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		<description><![CDATA[根岸森林公園── ここでは観光ガイドしての僕の出番はない。ただひたすら歩くのみ。 しかし、ここにも語るべき物語はある。今回はここで起きた不思議な話をしよう。もっとはっきり言えば、これは語り人に起こった奇跡の物語だ。 （序 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p><b>根岸森林公園</b>──<br />
ここでは観光ガイドしての僕の出番はない。<b>ただひたすら歩く</b>のみ。<br />
しかし、ここにも<b>語るべき物語</b>はある。今回はここで起きた<b>不思議な話</b>をしよう。もっとはっきり言えば、これは語り人に起こった<b>奇跡の物語</b>だ。<span id="more-552"></span></p>
<p>（<a href="http://kataribito.net/04/04-prologue/">序章「ヨコハマウォーク」</a>のつづき）</p>
<p>ここ根岸森林公園は敷地内に<b>米軍の基地</b>がある。<br />
ジョギングコースに入るとき、基地のゲート前を通過する。ゲートには<b>迷彩服姿の米兵</b>が交代で門番を務めている。長年この門前を通っているので、ほとんどの米兵が顔見知りだ。</p>
<p>そのなかに、ジョージという名の新入りの男がいた。カリフォルニア州サンディエゴからきたハンサムな黒人。</p>
<p>彼には<b>おそろしい能力</b>がある。おそろしいといって悪ければ「<b>驚嘆すべき</b>」と言い換えてもいい。</p>
<p>ジョージと初めて会ったのは去年の初秋だった。ときおり夏が未練がましく舞い戻ってきたりする季節で、僕は帽子を目深に被り、いつものようにゲート前を通り過ぎようとしていた。</p>
<p>「かっこいいキャップだね。とてもよく似合ってる」<br />
聞きなれない声だと思って一瞥すると、はたして<b>新入りの米兵</b>だった。</p>
<p>繰り返すが、<b>僕のウォーキングスピードは速い</b>。どのくらい速いかというと、競歩の選手にはむろん敵わないにしても、たとえばダイエットのために決死の形相で走っているポッチャリ女性を軽くスルーしてしまう、つまりそのくらいの速さ。</p>
<p>とにかく僕が言いたいのは、ここにきているのは<b>ジョギングやウォーキングが目的じゃない</b>ってこと。<b>健康やダイエットのために歩いているわけじゃない</b>んだ。</p>
<p>だから、ジョギングスーツやランニングパンツなんか着用しないよ。だって、いかにもって感じでカッコわるいじゃないか。</p>
<p>なんていうか、<b>集中するために歩いてる。孤独と向き合うために歩いてる。考えるために歩いてる。考えないために歩いてる。</b>うまく言えないけど、そんな感じ。</p>
<p>だから新人門番の呼びかけにも立ち止まることなく「サンキュー、きみの帽子もなかなかだよ」と言って通り過ぎた。</p>
<p>３キロのコースを例のスピードで一周して再びゲート前にくると、その男がいた。ずっと待ち構えていたように僕のことを見ている。いやな予感。</p>
<p>彼とおしゃべりをする気もなかったのでキャップをさらに目深に被り、そのまま通り過ぎようとした。男の<b>響きのあるバリトン</b>が僕を捉えた。</p>
<p>「<b>そんなに悲しいのは、本気で愛したからでしょ？</b>」</p>
<p>思わず足を止めて男を見た。とても無邪気な笑顔。その表情から悪意は読み取れない。真意を確かめたくて訊いてみた。</p>
<p>「それ、どういう意味？　僕に言ってるの？」<br />
「ほかに誰がいる。だいたい、<b>きみが僕を呼んだ</b>んだよ」<br />
「なに？　呼んだ覚えはないけど」<br />
「じゃあ、<b>きみが僕を求めた</b>、と言い換えようか」</p>
<p>そう言うと男は、その無邪気な笑顔に真っ白な歯を添えた。<br />
それがジョージとの最初の出会いだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><b>（２章へつづく）</b></p>
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