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	<title>声で人生が変わる！「愛と再生」のボイス・ストーリー　ユアボイス・マイボイス &#187; インタビュアー</title>
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	<description>あなたは自分の「声」が好きですか？ あなたは「声」で損をしていませんか？</description>
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		<title>第3話最終章　一流の証明（前編）</title>
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		<pubDate>Tue, 11 Nov 2014 03:18:46 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第3話　ボイスアクター編②　一流の証明]]></category>
		<category><![CDATA[アイドル声優]]></category>
		<category><![CDATA[アナウンサー]]></category>
		<category><![CDATA[アナウンサー試験]]></category>
		<category><![CDATA[インタビュアー]]></category>
		<category><![CDATA[テレビ局]]></category>
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		<category><![CDATA[金の卵]]></category>

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		<description><![CDATA[宝石を散りばめたような美しさといわれる横浜の夜景が 視界いっぱいに広がった。 言わなければ。今だ。今、言うんだ！ 僕は大きく息を吸った。 （7章「一流の女性たち」のつづき） 地下鉄みなとみらい21線で新宿三丁目まで行き、 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>宝石を散りばめたような美しさといわれる横浜の夜景が<br />
視界いっぱいに広がった。</p>
<p>言わなければ。今だ。今、言うんだ！<br />
僕は大きく息を吸った。<span id="more-297"></span></p>
<p>（7章「<a href="http://kataribito.net/03/03-7/">一流の女性たち</a>」のつづき）</p>
<p>地下鉄みなとみらい21線で新宿三丁目まで行き、そこから丸ノ内線に乗り継いで四谷三丁目に着いた。駅のアナログ時計の針は19時半を指していた。宴会を始めるには遅すぎず早すぎずの時間だ。</p>
<p>これからが大事な話になる。<br />
茂森愛由美にとって。それから一柳にとって、三条玲子にとって。<br />
もちろん僕にとっても。</p>
<p>半年前はまだ予兆に過ぎなかった四人の縁が動き出し、今その四人が<b>はじまりの場所</b>で一堂に会し、<b>今後の人生が大きく変わるだろう決断</b>を一人ひとりが下すのだ。僕は<b>出会いの不思議</b>を思わずにいられなかった。</p>
<p>店に到着すると、店長はじめスタッフのみんなから熱烈な「お帰りなさいコール」を浴びた。</p>
<p>いやな予感がした。賑やかしいクラッカー音で迎えられ、<b>「祝！声優デビュー！」</b>と書かれた垂れ幕が下がっているのではないか、という予感だ。店内を見回したが特別変わったことはなく、ほっと胸をなでおろした。</p>
<p>すぐに個室に案内され部屋に足を踏み入れると、いやな予感はやっぱり外れていなかったことを思い知った。床の間に大きなくす玉が仕掛けられていたのだ。僕は見なかったことにした。</p>
<p>「いやぁ、こんなご馳走を用意してもらって申し訳ないっす。愛由美ちゃんのお祝いに、オレたちまでご相伴にあずかって」</p>
<p>一柳はくす玉ではなく、テーブルに並んでいる大きな寿司桶やご馳走の数々が真っ先に目に入ったらしく、興奮して言った。</p>
<p>「何をおっしゃる。愛由美ちゃんが今日という日を迎えられたのは、一柳さんのおかげでもあります。その一柳さんの大切な方まで連れてきてくださって、今日はなんてうれしい日でしょう！」</p>
<p>山田店長はそう言って玲子さんに熱烈な握手を求めると、感激の面持ちで続けた。「一柳さんの初恋のお相手がどんな女性か、ずっとその話題で持ち切りでしたからね。もう想像どおりというか想像以上の麗しい方で、感激もひとしおです」</p>
<p>「ちょっと待ってくださいよ！」一柳が気色ばんで言った。「その話題で持ち切りって、どういうことすか？　いったいここは、プライバシーってものがないんすか！」</p>
<p>「プライバシーって、よくそんなことが言えたわね」<br />
玲子さんがすかさず切り返した。</p>
<p>「だったらなぜ私が、愛由美ちゃんのことを知ってたの？　店長さんだって、今日はじめてお会いしたとは思えないほどよ。それはなぜ？　ぜんぶあなたから聞かされていたからでしょ。あなたにプライバシーをうんぬんする資格はないの」</p>
<p>玲子さんのもっともな突っ込みに一柳はタジタジになって、例のごとく盛大な笑いでごまかしてから「ほら、この切り返し、語り人さんにそっくりでしょ」と僕を見てうれしそうに言った。</p>
<p>今日は店が立て込んでいるらしく、店長は「私はまたあとで少し参加させてもらいますが、みなさん遠慮しないでどんどんやってくださいね」と言って笑いながら出て行った。</p>
<p>「ちょっと一柳さん、今のは聞き捨てならないわね」<br />
玲子さんが突然、目くじらを立てて言った。</p>
<p>「もちろん、語り人さんと突っ込みどころが同じなのは光栄よ。でも、もしかしてあなた、語り人さんと切り返しがそっくりという理由で、私のこと好きになったわけ？」</p>
<p>玲子さんの追撃に一柳は、今度は真面目な表情で答えた。<br />
「それは確かにあるかもしれない。昔からオレを<b>本気で叱ってくれる人</b>は語り人さんだけだったから」</p>
<p>「まあ、それはいいわ。ごまかさないで率直に答えたことは評価してあげる。さっきも言ったように、これから一柳さんと語り人さんふたりの<b>事情聴取</b>に入るけど、その調子で頼むわよ。でもそのまえに」</p>
<p>そう言って玲子さんは、ずっと思いつめた様子の茂森愛由美に目をやった。<br />
「こっちの事情聴取が先かもね」</p>
<p>「語り人さん、愛由美ちゃんに何を言ったんすか？」一柳が真面目な顔で訊いた。</p>
<p>「おまえはもう気づいてるんだろう？　愛由美ちゃんの卒業後のことだ」と僕は答えた。</p>
<p>「卒業したら、ずっとおれのそばにいろって話？」玲子さんは声をオクターブ上げてはしゃいでみせたが「そんな雰囲気じゃないみたいね」と声のトーンを戻して言った。</p>
<p>「<b>事務所をやめろ。声優にはなるな</b>、でしょ？」一柳がぼそっと言った。<br />
「えっ、どういうこと？　ちょっと問題を整理させて」玲子さんが眉間に人差し指を当てて言った。</p>
<p>「その会社というか事務所？　事務所側にとって愛由美ちゃんは<b>金の卵</b>なわけよね。<b>アイドル声優</b>として大々的に売り出したい。でも愛由美ちゃんはアイドルじゃなくて、実力のある<b>本格声優</b>として認められたい。そのために今、語り人さんがバックアップしている。私の理解は間違っているかしら？」</p>
<p>「間違ってないよ。でも語り人さんはそもそも最初から、<b>愛由美ちゃんを声優にしたくなかった</b>んだよ」そう言って一柳は僕の目を覗き込んだ。<br />
「で、語り人さん、愛由美ちゃんをどうしたいんすか？」</p>
<p>「お嫁さんにしたい、じゃないのよね」と玲子さんが首を傾げた。</p>
<p>玲子さんの言葉に苦笑して僕は言った。「<b>声優をやめて就職するよう進言した</b>」</p>
<p>「先生」茂森愛由美がはじめて口を開いた。「先生ははじめから、わたしを、声優にするつもりはなかったのですね。それならどうして、レッスンをつけてくださったのですか？　教えてください」</p>
<p>「そうよ！」黙っていられないとばかりに玲子さんが割って入った。「レッスンをつけて、声優の仕事をさせて、そのデビューの日に、こんなデビュー祝いまでして、それで声優をやめろだなんて、そんな話聞いたことがないわ。ちょっと残酷なんじゃないかしら」</p>
<p>玲子さんの意見はもっともだった。</p>
<p>「今日、愛由美ちゃんがどんなにうれしかったか、どんなに幸せだったかわかります？　どんなに語り人さんを信頼し寄り添っていたか知ってます？　私は一緒にいて痛いくらい感じたわ。それなのに何？　同じ業界にいて愛由美ちゃんがアイドルになって、その事務所だかに奪い取られるのがいやなの？　オタクたちにもみくちゃにされるのが我慢ならないの？　それならそれで男らしく、おれのそばにいろって言えばいいじゃない！」</p>
<p>玲子さんの抗議は続いた。</p>
<p>「就職しろですって？　愛由美ちゃんが観覧車で聞きたかったのはそんな言葉じゃなかったはずよ。高いところまで上げておいて、直後に落として放り出して逃げ出そうなんて、無責任にもほどがあるんじゃない？　正直言って私、語り人さんを見損なったわ」</p>
<p>「いいかげんにしないか！」一柳が玲子さんに声を上げた。<br />
「語り人さんの真意も知ろうとしないで、勝手に先走るんじゃない！」</p>
<p>一柳の剣幕に玲子さんは驚いて息をのんだ。彼女はこれまで一度も、一柳に怒鳴られことなどなかっただろう。気づまりな沈黙のあと、一柳が照れ笑いのような表情を浮かべて言った。</p>
<p>「語り人さん、すみません。オレの連れ合いが失礼なことを言って」<br />
「いや、玲子さんの言うとおりだ。無責任と言われても仕方がない」</p>
<p>「そうじゃないっしょ」一柳はふっと笑ってから言った。<br />
「語り人さんの弱点その１、女ごころをわかってそうでぜんぜんわかってないこと。弱点その２、責任感が強すぎて相手をビビらせること。結果、その人の人生を変えてしまう」</p>
<p>一柳は続けて言った。「で、最後は責任をとって自分の人生まで変えちゃう。語り人さんはそんな人だ。オレのときもそうだった」</p>
<p>「まあ、その話はあとにしてと…」一柳は咳払いをして言った。<br />
「<b>アナウンサー</b>ですか？　<b>愛由美ちゃんをテレビ局に就職させようって魂胆</b>でしょ、語り人さん」</p>
<p>やっぱり一柳はお見通しだった。僕は肯いてから「愛由美ちゃん、すまない」と言った。茂森愛由美は俯いたまま何度も首を振った。</p>
<p>「でも、最初から考えてたわけじゃない。君の<b>能力と性格</b>を知れば知るほど、君を<b>声優という枠に嵌めること</b>に疑問を感じるようになった。ちょうどそんなとき、アナウンサー役の仕事がきた。これだと思った。それからは<b>アナウンサーの発声とイントネーション</b>を徹底的に叩き込んだ」</p>
<p>「なるほど。語り人さんにとっては好都合でしたね。自然の流れで<b>アナウンサーのトレーニング</b>に切り替えることができたわけっすから」一柳が僕の心情を代弁した。</p>
<p>「質問していいかしら」と玲子さんが言った。「そのまえに、語り人さん、先ほどはすみませんでした。語り人さんの真意を知りもしないで、失礼なことを言いました。申し訳ありませんでした」と神妙な顔をして頭を下げた。</p>
<p>「いえいえ、その率直さで引き続きよろしく」と僕は笑って返した。「それに、玲子さんの言ったことは半分当たってることを白状しますよ。ただそれを、僕の口から言わせないでもらえるとありがたい」</p>
<p>「言わなくてもわかりますよ。ね、愛由美ちゃん」そう言って玲子さんはうれしそうに茂森愛由美の顔を覗き込んだ。茂森愛由美は恥かしそうに俯いた。</p>
<p>「で、語り人先生、質問なんですけど、<b>声優のトレーニングとアナウンサーのトレーニング</b>って、どう違うんですか？」</p>
<p>ついさっき、ドスを聞かせた声で僕を責め立てていた人が、急に新入生のようなかわいらしい質問をしてきたことがなんとも可笑しかった。この人はたしかに一柳に合っているな、と僕は思った。</p>
<p>「基本的には<b>発声・発音</b>などのトレーニング方法は同じだよ。役者でもアナウンサーでも<b>＂外郎売＂</b>はやるからね」と僕は言った。</p>
<p>「あ、知ってる。＂拙者、親方と申すは＂ってやつでしょう」</p>
<p>「よく知ってるね、玲子さん」一柳が言うと「これでも高校で<b>演劇部</b>だったのよ。入りたくなかったけど、無理やり誘われてね」と玲子さんは、嫌な思い出でもあるのか顔をしかめて言った。</p>
<p>「言葉を正確に伝える。つまり、<b>日本語の</b><b>50</b><b>音を正しい明瞭な音で発声する点では、役者もアナウンサーも同じ</b>だよね。じゃあ、両者の決定的な違いは何か。愛由美ちゃん」僕は茂森愛由美に振った。</p>
<p>「はい。<b>役を演技で表現するのが役者で、情報を正確に伝達するのがアナウンサー</b>です。先生に何度も言われました。演技はエクスプレション（表現）でアナウンスはトランスミッション（伝達）だと」</p>
<p>「そうだね。だからトレーニング方法の違いを言えば、声優のトレーニングメニューから<b>＂演技＂</b>の項目を抜いて、たとえばそこに実況を伝えるための<b>＂フリートーク＂</b>を入れる」</p>
<p>「また、役者は役になりきるために<b>自分の感情を解放</b>しなければいけないけど、アナウンサーは逆だ。つねに<b>感情を抑制</b>し、あるいは感情を排して事実関係を客観的に伝えなければいけない。だから原稿の読み方はずいぶん違う」</p>
<p>「そうよね。犯罪のニュースやなんかで、アナウンサーが犯人を憎悪する口調で事件を伝えたり、被害者のために涙を流しながら原稿を読むなんて、見たことないものね」玲子さんの譬えはわかりやすい。</p>
<p>「まあ、アナウンサーの仕事にもいろいろあるから、感情を排するって一概には言えないけど。たとえばきょう吹き替えでやった<b>インタビュー</b>なんか、まさに<b>アナウンサーの腕の見せ所</b>だね。実に気持ちよく相手にしゃべらせていた。愛由美ちゃんは<b>翻訳</b>もやったからよくわかっただろう。<b>インタビュアーの質問の上手さ</b>が」</p>
<p>「はい。ゲストのプロフィールをとても綿密に調べ上げていたと思います。そのうえで通り一遍の質問ではなく一歩も二歩も踏み込んだ質問をして、それでいて<b>相手の魅力と満足度</b>を最大限に引き出しています」</p>
<p>「そのとおり。よくぞ聞いてくれましたって感じで、相手は膝を乗り出してうれしそうに答えている。これは<b>アナウンサーのインタビュー力</b>、つまり<b>聞く力</b>が優れているからだ。<b>一流の証し</b>だね」</p>
<p>ここで僕は、相手を納得させる<b>「決め台詞」</b>を言うために、丹田に気を込めた。</p>
<p>「愛由美ちゃんの能力はこのポジションでこそ活きると、僕は確信している。<b>声の演技にとどまる必要はない</b>と思う」</p>
<p>「先生」と茂森愛由美は涙声で言った「ごめんなさい。わたし、先生のお考えを何も理解できていなくて…。こんなわたしが、アナウンサーになれるでしょうか」</p>
<p>「だいじょうぶ、なれる。君は相手を喜ばせる<b>聞く力</b>を持っている。質問に対する<b>答える力</b>もある。それに」と僕は続けた。「僕の願いをかなえてくるって約束したじゃないか」</p>
<p>「すごいわ！　まさに<b>適材適所</b>じゃない。アナウンサーなら、アイドルだなんだって悩むこともないし、その美貌も<b>原稿読みのセンス</b>も、当たり前のこととして活かせるってわけね」</p>
<p>玲子さんは手を叩いて喜ぶと、何か疑問を感じたらしく首を傾げて言った。</p>
<p>「ところで一柳さんは、<b>語り人さんが愛由美ちゃんをアナウンサーにしようとしてる</b>って、なぜわかったの？」</p>
<p>「語り人さんはね、<b>タイミングを読む</b>人なんだよ」一柳はニヤリとして言った。</p>
<p>「半年前、ここで初めて愛由美ちゃんと会ったとき、オレたちは愛由美ちゃんのキラキラした笑顔と、立ち居振る舞いの<b>タイミングの良さ</b>に魅了された。それだけじゃなく彼女の<b>言葉使いのセンス</b>、<b>会話の間合いの良さ</b>に舌を巻いたんだ。<b>絶妙な間合いで繰り出される的確な質問や合いの手</b>で、オレも語り人さんも気持ちよくなって、気づいたら寸劇までやっちゃってた」</p>
<p>「<b>これは才能だ</b>と思った。でもこの才能は、とくべつ<b>声優に必須の能力</b>じゃない。語り人さんがそう考えてることが、オレにはわかったんだ」</p>
<p>「まあ、あなたちって本当に何でも分かり合うのね。まあいいわ。それで、愛由美ちゃんのその才能が<b>アナウンサー向き</b>だって思ったのね」</p>
<p>「オレはそこまで見抜けないよ。さっき、語り人さんと愛由美ちゃんの吹き替えを見てぴんときた。愛由美ちゃんは<b>声優としてアナウンサーを演じていたんじゃない。すでにアナウンサーだった</b>」</p>
<p>「どういうこと？」玲子さんの顏に？マークが浮かんだ。</p>
<p>「さっきも言ったろ。<b>語り人さんはこのアナウンサー役を利用して、愛由美ちゃんをアナウンサーに仕上げたんだよ</b>」</p>
<p>「えっ、なに？　じゃあ、<b>愛由美ちゃんは自分でも知らないうちにアナウンサーになってた</b>ってこと？　なんだか語り人さんって魔法使いみたいね。あっ、ちょっと待って」と言って玲子さんは目を輝かせた。</p>
<p>「そうすると今日は、愛由美ちゃんの<b>声優デビュー</b>であると同時に、<b>アナウンサーデビュー</b>の日でもあるのね」</p>
<p>「玲子さん、うまいこと言うね。それ、いただき！」一柳はそう言ってから立ち上がり、床の間に吊るされたくす玉に手をかけた。</p>
<p>「じゃあ、せっかくですから、やりますか」そう言って玲子さんに、店長を呼んでくるように、それからビールのおかわりをじゃんじゃん持ってくるように頼んだ。</p>
<p>「じゃんじゃんって、この宴席は店長のおごりなんだぞ。おまえは少しは遠慮しろ」と僕がたしなめると、一柳はぺろっと舌を出した。</p>
<p>茂森愛由美が立ち上がろうとすると、玲子さんは「あなたは主役なんだから、先生にくっついて座ってなさい」と笑顔で言った。</p>
<p>店長と茂森愛由美のバイト仲間が次々にやってきて、乾杯の準備を整えた。乾杯酒にはシャンパンが用意された。山田店長が乾杯の音頭をとった。</p>
<p>「<b>愛由美ちゃんの声優デビューとシャンパンスマイルに、シャンパンで乾杯！　おめでとう！</b>」</p>
<p>僕が命名したシャンパンスマイルは、茂森愛由美の代名詞としてすっかり定着していた。</p>
<p>茂森愛由美がくす玉の紐を引くと同時に、盛大なクラッカー音が鳴り響いた。ふたつに割れたくす玉から<b>「茂森愛由美</b><b> </b><b>祝！声優デビュー」</b>と大書された垂れ幕が下がった。つまり、すべてが僕の予想どおりだった。</p>
<p>この店のみんなが、茂森愛由美の<b>声優としての第一歩</b>を心からよろこんでいるのだ。僕は申し訳ないような複雑な気分だった。</p>
<p>茂森愛由美に<b>テレビ局のアナウンサー試験</b>を受験させることを山田店長に告げなければいけなかったが、それはまた別の機会にしようと思った。今夜、店は大忙しだ。店長はスタッフを引き連れて、早々とフロアに引き上げていった。</p>
<p>そこで待ってましたとばかりに一柳が訊いてきた。<br />
「で、語り人さん、どこの局を考えてるんすか。TBSあたりすか？」</p>
<p>「うん。民放ならね。でもおれは、<b>本命は</b><b>NHK</b>だと考えている」</p>
<p>「たしかに。NHKは愛由美ちゃんの大学の先輩もけっこういますよね」</p>
<p>「<b>ナレーションの達人</b>も多い。何より<b>語学力が大きな武器</b>になるはずだ。NHKは世界で活躍できる環境が整っている。アイドルに祭り上げられる心配もないし、インテリジェンスを嘲笑うバカもいない」</p>
<p>「ねえ、ちょっと待って」と玲子さんが割って入った。「その選択は文句なしにすばらしいと思う。でも本人の気持ちを差し置いて、あなたたちだけで決めちゃっていいわけ？　まず愛由美ちゃんの考えを聞くべきじゃないかしら。彼女にとっては寝耳に水の話なんだから」</p>
<p>「わたしは」と茂森愛由美は言った。「先生がそこまで、わたしのことを考えてくださっていたことが何よりうれしくて、幸せに思います。ですから、先生のお考えに従います」</p>
<p>「本音を聞かせて。本当はどうしたいの？」</p>
<p>「大学卒業後は就職しないで、先生の翻訳のお手伝いをさせていただきながら、先生のように、ナレーションを中心に声のお仕事をずっと続けていきたいです。レッスンも今までどおり続けたい」</p>
<p>「でしょうね。語り人さんのそばにいて、ずっと語り人さんと同じことをしていたい。それが本音よね」</p>
<p>玲子さんは茂森愛由美に同情の目を向けると、深い溜息をついてから思い切るように言った。</p>
<p>「でも私は、語り人さんの考えに賛成する。語り人さんは愛由美ちゃんが、愛由美ちゃんに相応しい場所に行くことを心から願っているのよ。それが最優先されるべきだって。本当は語り人さんだって…。わかるでしょ？」</p>
<p>俯いている茂森愛由美の目から大粒の涙がこぼれ、テーブルを濡らした。</p>
<p>「僕は愛由美ちゃんに…」不覚にも声が詰まり、ひとつ咳払いしてから僕は続けた。「<b>一流を知ってもらいたい</b>と思っている。だから、まずは<b>大きな組織</b>に身を置いてほしい。いわゆる<b>大企業</b>に」</p>
<p>「大企業の利点は言うまでもなくその<b>ブランド力</b>だ。社名を聞けば誰もが知っている。<b>知名度、貢献度、影響力、社会的責任</b>、それらを担う選良としての意識。つまり、優越も不安もひっくるめて肌で感じてほしい」</p>
<p>「<b>選ばれてあることの恍惚と不安ふたつ我にあり</b>」一柳が言った。</p>
<p>「<b>太宰治の言葉</b>ですね」茂森愛由美が引き取った。</p>
<p>半年前、太宰治は『走れメロス』と『人間失格』しか読んでいないことを恥じた彼女は、今では殆どの太宰作品を読破している。</p>
<p>「正確に言うと、<b>19</b><b>世紀フランスの詩人ヴェルレーヌの詩</b>の一節を、太宰が自分になぞらえて引用した言葉」と一柳が繋いだ。</p>
<p>「そう。<b>太宰の処女作品集『晩年』に収められている『葉』という短編</b>に出てくるヴェルレーヌの言葉だね。自分は文学者として<b>神に選ばれた人間</b>だ。そんな太宰の自負と気負いが横溢する作品になっている。でもヴェルレーヌはね…」</p>
<p>「語り人さん、講義はまたにしてくれますか」<br />
長くなりそうな僕の解説に一柳がストップをかけた。</p>
<p>「おまえがヴェルレーヌを持ち出すからだろ」<br />
だったらおれをのせないでくれ、と僕は一柳を睨んだ。</p>
<p>「いや、きっかをつくったのは愛由美ちゃんすよ。こうやって愛由美ちゃんは、オレたちをのせるんだ。アナウンサーでも報道記者でもどっちもイケるんじゃないすか」そう言って一柳は満足そうに頷いた。</p>
<p>「話を戻そう」と言って僕は続けた。</p>
<p>「<b>従業員３百人以上の大企業は、日本の企業全体の0.3％ といわれている。</b>その数字の理由を、内部から見極めてもらいたい。<b>大企業が大企業である所以</b>を、<b>一流が一流である証し</b>を、愛由美ちゃんに渦中で体験してほしいんだ」</p>
<p>「一流が一流である証し…」茂森愛由美は繰り返した。<br />
「そうだ。商品であれ、システムであれ、人であれ」<br />
「何年くらい、身を置けばそれがわかりますか」</p>
<p>「５年はいてほしい。<b>翻訳家</b>になるのも<b>ナレーター</b>になるのも、それからでも決して遅くない。いや、むしろそのほうが、よほどすごい翻訳ができるし、よほどすごい語り力が身につくはずだ。」</p>
<p>「わかりました」茂森愛由美は鼻をすすり、こくりと頷いて言った。「それが語り人さんの願いだとおっしゃるなら、私はそうします。アナウンサーになります。合格できれば、ということですけど」</p>
<p>「<b>大学の成績、容姿、適正、語学力、家庭環境</b>、どれをとっても落ちる理由は見当たらない。だいじょうぶ」</p>
<p>赤くなった鼻をハンカチで抑えながら、茂森愛由美はぎこちなく笑った。</p>
<p>「うんうん、愛由美ちゃんなら心配ないわよ。万が一落ちたら、うちの会社にいらっしゃい。私の権限をもって、私の部署に配属させるわ。任せなさい」と玲子さんは胸を叩いて言った。</p>
<p>玲子さんは<b>大手都市銀行の本社に総合職として勤務</b>する、バリバリのキャリアウーマンだ。さっきスタジオで、スイーツタイムのとき名刺をもらって、僕はびっくり仰天した。</p>
<p>しかも、あるセクションの<b>マネジャー職</b>にあるというから、一般企業では課長に相当するポジションだ。入社13年で年齢は35歳。大手銀行の総合職は出世に男女差はないことは知っていたが、それにしてもスピード出世だろう。</p>
<p>桜木町駅で最初に見たときの玲子さんの<b>第一印象</b>は、次のとおりだった。</p>
<p>年齢は20代後半に見えるが実年齢は30代半ば。人に命令することに慣れている。男には負けないわよという勝気な性質。これらはすべて当たっていた。でも銀行に勤務する会社員というのは意外だった。</p>
<p>「いちおう大企業の部類に入るから、いいですよね、語り人さん」</p>
<p>「それは本人に返答してもらおう」玲子さんの問いかけに、僕は茂森愛由美を促した。</p>
<p>茂森愛由美は玲子さんに感謝の言葉を丁重に述べてから「<b>保険はかけるな。これと決めたらよそ見はするな。ひとつことに集中しろ。</b>先生はそう仰ると思います」と言った。</p>
<p>「先生がだいじょうぶと仰るなら、わたしは安心して<b>アナウンサー試験の準備</b>に取り組むだけです」</p>
<p>「はいはい、わかったわ。まあ、息の合った師弟だこと」玲子さんは物分かりのいい親戚のおばさんみたいな言い方をした。</p>
<p>「じゃあ愛由美ちゃん、あなたはこれまで抱きつづけてきた夢を捨てて、語り人さんのお願いをきいてあげるんだから、遠慮しないであなたからもお願いしちゃいなさい」</p>
<p>「わたし、声優をやめても、大学を卒業しても、先生から卒業しませんから。今までどおりレッスンをつけてください。わたしを、テレビ局のアナウンサーにしてください。そして将来…」ここで言い淀んでから、茂森愛由美は言葉を継いだ。</p>
<p>「会社員を５年経験したら、わたしを、ナレーターにしてください。翻訳家にしてください。そして、いつも先生の近くにいさせてください。それが、わたしの願いです」</p>
<p>「<b>NHK</b><b>のアナウンサー</b>になるまでは全面的にサポートする。それは約束する」と僕は言った。「でも会社に入ったら、君には新たな世界が待っている。今からその先の未来を限定することはない」</p>
<p>「わたしは、自分の希望する未来を、今から限定したいんです。５年先、10年先の<b>未来予想図</b>を描いておきたいんです」</p>
<p>「ある詩人は言っている」と僕は言った。</p>
<p><b>未だ来ないものを人は創っていく<br />
</b><b>未だ来ないものを待ちながら<br />
限りある日々の彼方を見つめて<br />
人は生きていく</b></p>
<p>「<b>谷川俊太郎</b>ですね」と茂森愛由美は言った。</p>
<p><b>誰もきみに未来を贈ることはできない<br />
</b><b>なぜなら　きみ自身が未来だから</b></p>
<p>「ちょっと語り人さん。<b>詩の言葉の引用で事態を曖昧にしてはぐらかそうとする</b>の、私は好きじゃないな。自分の言葉で、具体的な返事をしたらどうかしら」と玲子さんは異議を唱えた。</p>
<p>「玲子さん、だいじょうぶです」と茂森愛由美は言った。「先生は、はぐらかしてなんかいません。今のわたしにぴったりの言葉をくださいました」</p>
<p><b>「きみ自身が未来なのに、何を今、未来のあれこれを限定する必要があるだろう。未来に繋がる今日を大切に生きること、それがきみ自身を創り、未来を創ることに他ならないのだから」</b><b></b></p>
<p>茂森愛由美は自分の言葉で、この詩を意訳した。<br />
「先生は、そうおっしゃりたいんだと思います」</p>
<p>「なんかあなたも、語り人さんと一柳さんみたいになっちゃったわね」<br />
玲子さんは僕と一柳を見て大きな溜息をついた。</p>
<p>ここで一柳が「うーん」と唸り声を発した。<br />
出た。一柳お得意の「まとめの言葉」が始まるタイミングだ。</p>
<p>「未来のことはある程度、曖昧にしておいていいんじゃないかな。どうせ、修正を余儀なくされるんだ。上方修正にせよ下方修正にせよ。会社の中長期計画みたいにね。<b>自分の人生は社長も株主も自分</b>だから、だれに気兼ねすることもない」</p>
<p>「わかったわよ。私だけ理系で分が悪いわ」と玲子さんは観念して言った。「まあ、私は愛由美ちゃんがよければいいのよ」</p>
<p>そう、玲子さんは<b>理系女子</b>なのだ。<b>偏差値最高クラスの私立大学の数学科</b>を出ている。これも驚いたことのひとつだった。</p>
<p>そのとき一柳がまた唸り声をあげた。まだまとめ足りないのかと思っていると意外なことを言った。</p>
<p>「分が悪いのはオレですよ。大企業どころか、オレだけ<b>就職未経験者</b>だもん。語り人さん、ズルいっすよ。なんで大学時代、オレに言ってくれなかったんすか！」一柳が恨みがましそうに言った。</p>
<p>「何をだよ？」と僕は訊いた。</p>
<p>「さっき愛由美ちゃんに言ったことっすよ。<b>大企業に潜入して</b><b>0.3</b><b>％という数字のトリックを見破ってこい</b>って」</p>
<p>「おれはそんなことは言っていない」呆れて僕は返した。<br />
「大企業で５年辛抱して働いて、それから劇団に行けば、オレの人生はもっとましなものになってたのになぁ」</p>
<p>「言ったよ。言ったけど、あのときのおまえは聞く耳を持たなかっただろ。<b>卒業したらすぐに劇団に入るんだ</b>って、それしか頭になかったじゃないか」と僕は反論した。</p>
<p>「もっと説き伏せてほしかったすよ。あーあ、あのときのオレはバカだったなぁ。<b>遊び人の役者バカ</b>」一柳はそう言って嘆息した。</p>
<p>しかし、そのあとすぐに切り替えてニヤリと笑った。「でも<b>語り人さんは、役者のオレに惚れた</b>んすよね」</p>
<p>「おまえ、誤解を招くようなことを…」僕は玲子さんの顔色を窺った。</p>
<p>「やっぱりあなたたち、<b>そういう関係</b>だったのね！」玲子さんの目が吊り上がった。</p>
<p>「オレね、<b>語り人さんにナンパされた</b>んだよ。<b>男にナンパされたのは初めて</b>だった」</p>
<p>「わかったわ。そろそろ、あなたたちの事情聴取に移ろうじゃないの」<br />
そう言って玲子さんは茂森愛由美を見た。「愛由美ちゃん、いいかしら」</p>
<p>「はい、わたしも、先生と一柳さんの大学時代のお話に興味があります」と茂森愛由美は目を輝かせて言った。「玲子さん、わたしは陪審員という立場でよろしいでしょうか」</p>
<p>「愛由美ちゃん、いいわね。その調子で頼むわ」そう言うと玲子さんは、容赦ない冷徹な検事のような皮肉な笑みを口の端に浮かべた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（次回最終章「一流の証明（後編）」につづく）</p>
<p>&nbsp;</p>
<div class="point">
<h3><span>今日のボイスメモ、あるいは、声にまつわるささやかな教訓</span></h3>
<ol>
<li>出会いが人を動かし道を開くきっかけとなる。求めれば必ず出会える。<span style="color: #ff6600;"><b>笑顔でいなさい。素直でいなさい。懸命でありなさい。誠実でありなさい。</b></span></li>
<li>もう一度言う。笑顔でいなさい。素直でいなさい。懸命でありなさい。誠実でありなさい。それが<span style="color: #ff6600;"><b>愛される条件</b></span>だ。芸能の世界だけではない。どこにいようと、<span style="color: #ff6600;"><b>生きるという営み自体が「人気商売」</b></span>なのだ。<span style="color: #ff6600;"><b>愛される人になりなさい。そしてそれ以上に、愛する人になりなさい。</b></span></li>
<li>スクールや養成所に行っていることでやっている気になっている人が多い。<span style="color: #ff6600;"><b>生活のためのアルバイトや仕事を言い訳にして、日々の勉強やトレーニングの時間をつくれない人</b></span>が、どうして<span style="color: #ff6600;"><b>その道のプロ</b></span>になれるだろうか。</li>
<li><span style="color: #ff6600;"><b>「聞くために話す」</b></span>人と<span style="color: #ff6600;"><b>「話すために聞く」</b></span>人がいる。立て板に水のごとく一方的にしゃべって相手を説得してしまう人を<span style="color: #ff6600;"><b>「話上手」</b></span>とは言わない。それは単に<span style="color: #ff6600;"><b>「口がうまい」</b></span>だけだ。</li>
<li>物語の性質上、ここでは登場人物のひとりに大きな組織、大企業に入ることを推奨しているが、これはあくまで一例に過ぎない。零細・中小企業には、大企業にはない良さがある。それは主に、<span style="color: #ff6600;"><b>部分ではなく全体に携わる仕事ができる</b></span>ことだ。そして言うまでもなく、ここにも一流が存在する。<span style="color: #ff6600;"><b>一流＝大組織ではない</b></span>。</li>
<li>出あって別れて、泣いて笑って、愛して憎んで…。始業と卒業、期待と諦観、希望と絶望、夢と現実、勤勉と怠惰、謙虚と傲慢、尊敬と軽蔑、集中と散漫、注目と無視、理解と誤解、前進と後退、勇気と臆病、善意と悪意、決断と我慢、勝利と敗退…。<span style="color: #ff6600;"><b>逆転現象</b></span>はいつだって起こるんだ。でも、<span style="color: #ff6600;"><b>人生はいくらでも修正がきく</b></span>のだよ。だって、<span style="color: #ff6600;"><b>自分が主人公</b></span>だもん。</li>
</ol>
</div>
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		</item>
		<item>
		<title>第3話6章　一流の選択</title>
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		<pubDate>Sun, 21 Sep 2014 14:19:12 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第3話　ボイスアクター編②　一流の証明]]></category>
		<category><![CDATA[インタビュアー]]></category>
		<category><![CDATA[インタビュイー]]></category>
		<category><![CDATA[ランドマークタワー]]></category>
		<category><![CDATA[丹田呼吸法]]></category>
		<category><![CDATA[横浜港]]></category>
		<category><![CDATA[発声練習]]></category>
		<category><![CDATA[瞑想法]]></category>

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		<description><![CDATA[翻訳が完成したら、あとはひたすら読み込みだ。レッスンで、映像を流しながら実際に声をあてていく練習を何度も繰り返した。勘がいいうえに努力家の彼女は、みるみる役をものにしていった。そのようにして、僕たちは収録の日を迎えた。茂 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>翻訳が完成したら、あとはひたすら<strong>読み込み</strong>だ。レッスンで、<strong>映像を流しながら実際に声をあてていく練習</strong>を何度も繰り返した。勘がいいうえに努力家の彼女は、みるみる役をものにしていった。そのようにして、僕たちは収録の日を迎えた。茂森愛由美にとっては<strong>記念すべき声優デビューの日</strong>を。<span id="more-273"></span></p>
<p>（5章「<a href="http://kataribito.net/03/03-5/">一流の条件</a>」のつづき）</p>
<p>「じゃあ寺さん、準備をお願いします。僕たちは<strong>声を作ってます</strong>から」</p>
<p>声を作るとは<strong>発声練習</strong>のこと。自宅で軽めの声出しはすませているが、ここで<strong>声量を上げた本格的な発声</strong>をおこなう。寺さんのスタジオでは気兼ねなくできるからとても助かっている。</p>
<p>「はいよ！　Cスタでやるといいさ」寺さんが言った。<br />
僕は茂森愛由美を目で促した。</p>
<p><strong>15分程度の発声</strong>を終えてCスタジオを出ると、ロビーのテーブルにコーヒーがふたつ用意されていた。淹れたてみたいだ。今日はとりわけサービス満点の寺さんだ。</p>
<p>「寺さん、ありがとう」「ありがとうございます。ご馳走になります」<br />
僕たちはそれぞれ、MA室で最終チェックをしている寺さんに声をかけた。<br />
「あと5分、くつろいで待っててよ」と声が返ってきた。</p>
<p>本番を前にして茂森愛由美は明らかに緊張していた。無理もない。<br />
「くつろぐどころじゃないよね。じゃあ、あれをやろう」</p>
<p>軽く目を閉じて、丹田を意識してゆっくり口から（15数えながら）吐いて、鼻で（3数えながら）吸う。<strong>丹田呼吸法</strong>だ。意識を丹田に持っていき呼吸を数えることで、<strong>雑念が取り払われ気持ちが落ち着いてくる</strong>、れっきとした<strong>瞑想法</strong>だ。</p>
<p>「お待たせ、<strong>スタンバイOK！</strong>」<br />
寺さんの声を合図に僕たちは目を開け、互いの顔を見合わせた。</p>
<p>瞑想のあとの茂森愛由美の表情には、<strong>緊張とは無縁の静謐で純粋な美しさ</strong>が宿っていた。<strong>なんの憂いもない、企みもない、媚びもない</strong>。ひと言でいうなら、それは<strong>人を感動させる美しさ</strong>だった。</p>
<p>もしも今、たとえばルノアールがここにいたら、彼女をモデルに夢中で筆を走らせたに違いない。絵のタイトルは「<strong>微睡みから目覚めた少女</strong>」。</p>
<p>そして我らが寺さんも、本当はレコーディングなんかうっちゃって、今すぐフィギュア制作に取りかかりたいに違いない。タイトルは「<strong>No.31茂森愛由美</strong>」。</p>
<p>「<strong>さあ、楽しいお芝居の時間だ</strong>」</p>
<p>そう言って僕は立ち上がり茂森愛由美にエールを送った。</p>
<p>「<strong>君はやるべきことはやった。あとは楽しめばいい</strong>」</p>
<p>広めのレコーディングブースの中央に置かれたテーブルの上に、二人分のマイクとモニター画面が向かい合っている。<strong>インタビュアー</strong>（インタビューする人）と<strong>インタビュイー</strong>（インタビューされる人）同様、向かい合う設定だ。</p>
<p>「<strong>レベルの調整</strong>をするんで、まず茂森さんから声をください」<br />
寺さんの声がヘッドフォンから飛び込んできた。</p>
<p>「頭から本番と同じ調子で、ストップがかかるまで読むように」<br />
僕は茂森愛由美にそう指示した。</p>
<p>「はい、OKでーす」と寺さんの声。僕も指でOKサインを作って言った。<br />
「いいよ。その調子だ」茂森愛由美はほっとしたように笑顔を返してきた。<br />
僕のレベルチェックも終わり、<strong>さあ、いよいよ本番だ</strong>。</p>
<p>モニター画面に映像が流れる。<br />
番組は<strong>アナウンンサーのMC</strong>から始まる。<br />
5秒のオープニングBGM。</p>
<p>茂森愛由美は目を閉じた。<br />
長いまつ毛が音を立てる。鳥が止まり木で羽を休めるように。<br />
そして再びまつ毛が音を立てる。鳥が羽を広げ飛び立ったのだ。<br />
茂森愛由美は目を開いた。</p>
<p><strong>（レコーディング中）</strong></p>
<p>「<strong>はい、オールOK！　いただきましたー！</strong>」<br />
寺さんの声が終わりを告げた。そして驚きの声をあげた。<br />
「すっごいね。一度も止めなかったよ！」</p>
<p>そうなのだ。僕たちは<strong>最初から最後まで一度も噛むことなく、一度も読み違えることなくノンストップで</strong>、このしゃべりっぱなしの30分番組の吹き替え収録を終えたのだ。</p>
<p>僕はヘッドフォンをはずし椅子から立ち上がり、右手の親指を立てて茂森愛由美の健闘を称えた。</p>
<p>茫然自失といった様子の彼女は慌ててヘッドフォンをはずし、椅子を倒す勢いで立ち上がると、いきなり僕に飛びついてきた。そして今度は声を上げて泣き出した。子どもみたいに。</p>
<p>茂森愛由美の背中をさすったり、頭をなでたりしながら僕は言った。<br />
「よくがんばった。上手だった。でも仕事はまだ終わってないぞ。声が変わっちゃうから泣くな。次の大学生の役に、<strong>色っぽい鼻声</strong>はいらないよ」</p>
<p>「はい。すみません」と言いながら彼女は、抱きつかれた体勢のまま僕が箱から鷲掴みして渡した数枚のティッシュで目と鼻を押さえた。</p>
<p>寺さんがその様子をニヤニヤしながら見ていた。寺さんがいるMAルームの前面はガラス張りになっていて、ブース内が丸見えなのだ。</p>
<p>「ほら、寺さんが見てるよ」と言うと、茂森愛由美はハッとして体を離し、ガラス越しに寺さんに向かって「見苦しいところをお見せして申し訳ありません」と言って、顔を真っ赤にしてお辞儀をした。</p>
<p>といっても、マイクを通さないとMAルームにいる寺さんには聞こえないのだが。</p>
<p>レコーディングブースを出ると、寺さんが僕たちを待ち構えていた。</p>
<p>「二人の息がぴったり合っててさ、すっごいリアルだったよ」と寺さんは言った。「茂森さん、初めてって言ってたけど、すっごいね！　それに、おれ思ったんだけどさ、茂森さん、<strong>台本をほとんど見てなかった</strong>よね。まさか、暗記してたって話？」</p>
<p>「そう、<strong>丸暗記</strong>。翻訳も彼女がしたんです」<br />
寺さんは茂森愛由美を見ずに僕を見てしゃべったので、僕が答えた。<br />
「ひえー、そんな声優さん、おれ、はじめて見たさ！」</p>
<p>寺さんもいろんな声優の収録に立ち会っている。短いセリフならともかく、<strong>これだけの長文を一度も噛まずに読み、しかも台本なしでのぞむ声優は見たことがない</strong>と驚いたのだ。</p>
<p><strong>翻訳までしてしまう声優</strong>もいないと思うのだけど、それはまあ僕がそうだからあえて言及しなかったのだろう。</p>
<p>暗記に関しては、実は僕も驚いた。何度もふたりで合わせ練習をしたわけだけど、何度目かで完全に頭に入っていた。暗記したのかと訊くと、<strong>読んでいるうちに自然に覚えた</strong>という。なるほど、優等生は記憶力にも優れている。</p>
<p>寺さんは早速、<strong>編集と整音の作業</strong>に入った。<br />
「ノンストップでいけたので作業は楽ちんさ」と寺さんは喜んだ。</p>
<p>僕たちもMAルームにお邪魔して、<strong>映像に同期させた吹き替え音声</strong>をひととおり確認した。</p>
<p>「わたし、こんな声なんですね。なんか変です」茂森愛由美が言った。<br />
「最初はびっくりするよね。そのうち慣れるよ」と僕は言った。<br />
「<strong>艶っぽくていい声</strong>だよね。おれ、好きだなあ」と寺さんは言った。</p>
<p>時間はお昼12時を回ったばかり。予定よりずいぶん早く終わった。</p>
<p>「あっ、そうそう、カツ丼の出前、頼んどいたよ。そろそろ届くころ。今日が<strong>愛弟子のデビュー</strong>だから景気づけにって、語り人くんが」<br />
後半は茂森愛由美をチラッと見て寺さんは言った。</p>
<p>そんなことを言っているうちに出前が到着した。カツ丼が２つしかないのを見て、茂森愛由美は首を傾げた。<br />
「寺さんは愛妻弁当なんだって」僕が代弁した。</p>
<p>「そうなんだ。血糖値とかコレステロール値とか、いろいろ問題があってさ。だから女房に管理されてるんだ。三食、精進料理だよ」と寺さんは苦笑しながら言った。「だからおれのことは気にしないで。二人はしっかり腹にためなきゃ。語り人くんの口癖…」</p>
<p>「<strong>声優は腹でしゃべる</strong>」茂森愛由美が引き取って笑った。</p>
<p>昼食を終えるとまだ１時前だった。次の録りまで１時間ちょっと。一柳が15分前に入るとしても、まだ１時間ある。食後は軽い散歩を日課とする僕は、茂森愛由美に言った。</p>
<p>「僕はこの辺を少しぶらぶらしてくるけど、君はここでゆっくりしていればいい」<br />
すると茂森愛由美は、自分も歩きたい。わたしが一緒だと邪魔かと訊いた。僕は邪魔じゃないと答えた。</p>
<p>外に出ると、太陽はまだ一番高いところにあった。「今日は暑さが戻るでしょう」と天気予報の女の子が<strong>棒読み口調</strong>で断言していたが、それほどでもない。季節はもう秋なのだ。</p>
<p><strong>横浜桜木町駅の地下道をみなとみらい方向に</strong>歩いていると、いきなり茂森愛由美が叫んだ。</p>
<p>「邪魔なんかじゃない！」<br />
「いったいどうしたんだ？」と訊ねると、彼女はうれしそうに言った。</p>
<p>「今も言ってくださいましたけど、あのとき、半年前、先生がおっしゃったんです。わたしが＂おじゃましました＂って言ったとき」<br />
「ああ、そうだった。一柳とデカい声でハモっちゃったんだ」</p>
<p>「わたし、びっくりしたけど、あんなにうれしかったことはないの」<br />
「えっ、なにそれ？」</p>
<p>「あんなに<strong>本気でかまってもらった</strong>ことがなかったというか。カチカチ山のお話とかして、本当に楽しかった。うまくいえないけど、とにかく顔がカーって熱くなって、胸がドキドキして…。あのあと裏でわんわん泣いちゃいました。そしたらバイトの吉岡君がね、どうしたの？　あの客にいじめられたの？って言うの。違うわよ、<strong>ハートを射抜かれた</strong>のよ、って言ったらキョトンとしてた」</p>
<p>「泣き虫だね。強いくせに。空手二段」とからかうように僕は言った。<br />
「違います。先生と出会ってから泣き虫になったんです」と茂森愛由美は口を尖らせてから頬を膨らませた。</p>
<p>「えっ、僕のせい？」<br />
「そうです。だって、二番目にうれしかったのは手書きのお名刺をいただいたときだし、三番目はびっくりするくらい心のこもったお手紙をいただいたときだし、四番目は先生のお夕食を作って、おいしいって食べてくださったときだし、五番目はこのお仕事をいただいたときだし、六番目はさっき収録が終わって頭をなでてもらったときだし、七番目はいま…」</p>
<p>「もうわかったよ」めずらしく饒舌な茂森愛由美の口を僕は塞いだ。<br />
「要するに、わたしが泣いたのは、ぜんぶ、先生がらみだってことです。だから、先生が、わたしを、泣き虫にしたんです」</p>
<p>「じゃあ何度も言ってるけど、その＂先生＂っていうのやめてくれるかな。生徒を泣かせてばかりじゃ、先生とはいえない」</p>
<p>僕は<strong>苦手とすること</strong>が結構多い人間で、<strong>先生と呼ばれること</strong>もそのひとつだ。ほかにも<strong>カラオケボックス</strong>とか、<strong>喫茶ルノアール</strong>とか、サラリーマンがたむろする<strong>新橋あたりの居酒屋</strong>とか、終電から始発までの<strong>新宿歌舞伎町</strong>とか。（あれ、場所ばっかりだ）</p>
<p>「いやです。この際ですからはっきり言わせていただきます」<br />
茂森愛由美は立ち止まり、まっすぐな目で僕を見て言った。この目に僕は弱い。</p>
<p>「わたしの言う先生とは、学校の<strong>教師</strong>とか、お<strong>医者</strong>さまとか、<strong>弁護士</strong>さんとか、<strong>議員</strong>さんとかの先生じゃないんです。わたしが尊敬し、心からお慕いしている方への敬称です。ですから」ここで一区切り入れて、茂森愛由美は恥らいがちに続けた。</p>
<p>「ですからわたしは、先生の生徒ではありません。生徒ではありませんから、卒業もありません」</p>
<p>「茂森愛由美、君は今日、いささかおしゃべりが過ぎるようだ。<strong>楽しい演技の時間</strong>をまだ引きずっていて興奮状態にあるのはわかるけど、そのくらいにしておこう」</p>
<p>「興奮状態にあるのは認めます。でも浮かれて言っているんじゃありません。<strong>本当の気持ち</strong>を申し上げました」</p>
<p>「わかったよ。でも卒業はしてもらう。この先ずっとレッスンを続けるわけにいかないからね。ご両親に約束した期限は２年。だから僕のレッスンは残すところ半年だ」</p>
<p>「わたしが言ったのは、レッスンの卒業じゃありません」<br />
茂森愛由美は俯くと、聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った。<br />
聞こえなかったほうを僕は<strong>選択</strong>した。</p>
<p>コロンビア大学ビジネス・スクール教授のシーナ・アイエンガー博士の調査によると、<strong>人は一日、朝起きてから夜眠りにつくまでの間に、平均で70回の選択を行う</strong>という。僕自身はもっと多いような気がする。やれやれ。</p>
<p>いつのまにか<strong>ランドマークタワー</strong>にきていた。地上70階の文字どおり横浜のランドマーク（目印）だ。眼下には<strong>横浜コスモワールドの大観覧車</strong>が、その向こうに<strong>横浜港</strong>が一望できるビューポイントに僕たちはいた。</p>
<p>「先生、わたし、あの観覧車に乗りたい。先生と」<br />
「ああ、次に何かうれしいことがあったら乗ろう」<br />
「じゃあ、すぐですよ。先生といるとうれしいことばかりですから」<br />
「おっといけない」僕はまた聞こえないふりを選択した。<br />
「もう戻らないと。一柳が先に着いてしまう」</p>
<p>ランドマークタワーの３階、オシャレなショップの並ぶ<strong>ランドマークプラザ</strong>を出ると、そこから桜木町駅に直結する「<strong>動く歩道</strong>」がある。けっこうな距離があって、乗ったまま左右に横浜の景観を楽しむことができる。</p>
<p>茂森愛由美が突然、腕をからませてきた。動く歩道が少し苦手なのだという。僕はこういう展開が苦手なのだ、と言おうしてやめた。今日は、<strong>今日だけは彼女のしたいようにさせてあげよう</strong>と思った。</p>
<p>さっきから気づいていたことだが、彼女とふたりでいると<strong>擦れ違う人の視線</strong>が気になる。10人中8人が目をとめるのだ。茂森愛由美に対する好意的、ないし称賛の視線もあるが、好奇な視線、不躾な視線、嫉妬の視線も散見される。</p>
<p>人々はまずハッとした顔で茂森愛由美を見る。次に僕を見て「？」という顔をする。たぶん「どういう関係？」って訊きたいのだろう。「親子じゃないよね？」という疑問符かもしれない。</p>
<p>ふだん彼女は極力目立たないように、とても地味な格好をしている。<strong>Tシャツにジーンズ</strong>とか、<strong>ポロシャツにジャージ</strong>といった組み合わせだ。外ではほとんどスカートをはかない。靴はもちろんスニーカー。</p>
<p><strong>髪はまっすぐなロング</strong>だが、いつも後ろでひっつめている。ときどき<strong>キャップ</strong>をかぶり、<strong>黒縁のメガネ</strong>をかける。メイクはほとんどしない。装身具もつけない。レッスンの日だけ髪をおろし、少しだけ薄化粧をする。</p>
<p>それが今日はしっかりメイクをし、髪は毛先を遊ばせた緩やかな巻き髪にしている。服装は上品な<strong>オトナかわいい系のミニのワンピース</strong>。さらに、いくつかの小さなダイヤをあしらったネックレスが、さりげなく胸元を飾っている。</p>
<p>いつもは、どちらかといえば<strong>美少年</strong>という感じで、異性を意識させることはあまりないのだが、こんな格好をするとあらためて「<strong>なんてきれいな女の子だろう</strong>」とドギマギしてしまう。</p>
<p><strong>ふつうの21歳の女の子</strong>なら、いつも<strong>可愛い服を着てお出かけ</strong>したい年頃だろう。<strong>オシャレをして彼氏とデート</strong>して、<strong>友だちとランチ</strong>をして、<strong>大学のサークルメンバーで飲み会</strong>をしたり、<strong>旅行の計画</strong>を立てたりしているはずだ。</p>
<p>そのとき僕は、そんなこととは無縁の生活を送っている茂森愛由美が無性にけなげに思えて、抱きしめたくなった。抱きしめる代わりに、組んでいる腕に力を込めた。</p>
<p>動く歩道を降りると３階からいっきに下る、これまた長いエスカレーターに乗る。地上に降りても茂森愛由美は組んだ腕を離そうとしなかった。</p>
<p><strong>JR桜木町駅</strong>にさしかかると、改札を出たところに見覚えのある男の姿があった。見間違えようがない。一柳だった。</p>
<p>ナイスなタイミング。茂森愛由美がやっと腕を離したので駆け寄ろうとして、すぐに思い直した。一柳が改札のむこう側に手を振ったからだ。どうやら、だれかと待ち合わせをしているらしい。</p>
<p>様子を覗っていると、一柳が手を振った相手は、あたりまえだけど女性だった。遠目からでも目立つ、<strong>ある種のオーラを放つ女性</strong>だ。</p>
<p>一柳の<strong>よく通る声</strong>が聞こえた。「遠いところまでありがとう」。<br />
女性が笑みを返した。満面の笑みではない。少し困惑している笑み。<br />
20代後半に見える。でも実年齢は30代中盤といったところか。</p>
<p><strong>次元の違う美人</strong>というか、<strong>化粧品のCMに出てくるモデルのような女性</strong>だ。メイクのせいもあるだろうけど、目ヂカラがあるというか<strong>挑戦的な眼差し</strong>をしている。「<strong>男には負けないわよ</strong>」といったような。</p>
<p>あの女性だ！　と僕の直感が告げた。一柳を改心させた女性。数々の浮名を流してきた<strong>百戦錬磨のモテ男</strong>が、はじめて自分から惚れた女性。</p>
<p>僕たちは５メートルほど後方から見ていたのだけど、そのとき突然、一柳が振り向いたので目が合ってしまった。</p>
<p>一柳は少し驚いた表情を見せたが、横にいる茂森愛由美の存在に気づくと、さらに驚いた顔をした。</p>
<p>「おやおや」と一柳は言った。<br />
「おやおや」と負けずに僕も返した。</p>
<p>（次章につづく）</p>
<p>&nbsp;</p>
<div class="point">
<h3><span>今日のボイスメモ、あるいは、声にまつわるささやかな教訓</span></h3>
<ol>
<li>疲れたとき、緊張しそうなとき、心がざわつくとき、むしゃくしゃするとき、<span style="color: #ff6600;"><strong>丹田瞑想</strong></span>をお勧めする。スーッと気持ちが静まり、心が落ち着くのを実感するだろう。</li>
<li>「<strong><span style="color: #ff6600;">やるべきことはやった</span></strong>」と本当に言えるのか。<span style="color: #ff6600;"><strong>いつも自問すること</strong></span>が大切だ。</li>
<li>「<span style="color: #ff6600;"><strong>苦手</strong></span>」という言葉はあまり使わないほうがいいが、使うなら自信を持って言おう。反対に「<span style="color: #ff6600;"><strong>得意</strong></span>」という言葉は控えめに言おう。</li>
<li>世の中には「<span style="color: #ff6600;"><strong>先生</strong></span>」が多すぎる。<strong><span style="color: #ff6600;">先に生まれたから先生というわけじゃない</span></strong>。できないことを教えてくれて、導いてくれて、眼を開かせてくれる人。年齢に関係なく、そういう人を先生と呼びたい。</li>
<li><span style="color: #000000;">「<span style="color: #ff6600;"><strong>人は一日に２万回もの選択をおこなっている</strong></span>」という説もある。70回説と２万回説の違いは、基準をどこに置くかという定義の問題だ。数字は数字でしかない。傾注すべきは<span style="color: #ff6600;"><strong>その選択をおこなった結果</strong></span>だ。</span></li>
<li><span style="color: #ff6600;"><strong>仕事が先かデートが先か</strong></span>。一柳と語り人は、いったいどこに向かおうとしているのか。それは僕にもわからない。やれやれだ。</li>
</ol>
</div>
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