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	<title>声で人生が変わる！「愛と再生」のボイス・ストーリー　ユアボイス・マイボイス &#187; キュー出し</title>
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	<description>あなたは自分の「声」が好きですか？ あなたは「声」で損をしていませんか？</description>
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		<title>壜詰めの語り人─ラジオの時間</title>
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		<pubDate>Wed, 03 Jun 2015 12:56:18 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[ボイスエッセイ]]></category>
		<category><![CDATA[オープンスタジオ]]></category>
		<category><![CDATA[キュー出し]]></category>
		<category><![CDATA[収録ブース]]></category>
		<category><![CDATA[啄木鳥]]></category>
		<category><![CDATA[壜詰め]]></category>
		<category><![CDATA[歌い人]]></category>
		<category><![CDATA[石川啄木]]></category>
		<category><![CDATA[缶詰め]]></category>
		<category><![CDATA[美人パーソナリティ]]></category>
		<category><![CDATA[身も蓋もない]]></category>

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		<description><![CDATA[「いま、缶詰めなんだ」 締め切り間際に、あるいはしばしば締め切り後に 僕たちがよく使う言葉。 メールや電話をくれた人に、 このところ頻繁に口にしている。 缶詰めとは、人を一定の場所に閉じ込めること。 仕事の促進や秘密保持 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>「いま、<b>缶詰め</b>なんだ」</p>
<p><b>締め切り間際</b>に、あるいはしばしば<b>締め切り後</b>に<br />
僕たちがよく使う言葉。</p>
<p>メールや電話をくれた人に、<br />
このところ頻繁に口にしている。<span id="more-398"></span></p>
<p><b>缶詰め</b>とは、人を一定の場所に閉じ込めること。<br />
仕事の促進や秘密保持のために行う。（大辞林）</p>
<p>「<b>缶切り</b>を持って伺いましょうか」<br />
「<b>啄木鳥</b>（キツツキ）を送ります」</p>
<p>何人かの人が、そんな素敵な提案をしてくれた。<br />
僕の大好きな人たちは、どう言えば僕が喜ぶか<br />
くすぐりどころをよくご存知だ。</p>
<p>「気が利かなくてごめんなさい。そんなことなら、<br />
<b>缶切り</b>を送って差し上げるべきでした」</p>
<p>そう返してきた女の子は、手書きの<b>ドラえもん</b>の<br />
絵を送ってくれた。激励の吹き出し文字を添えて。</p>
<p>「語り人さん、お仕事がんばってくださいね！」</p>
<p>いえいえ、この状況にはドラえもんこそ適任です。<br />
缶切りが必要ならドラえもんに頼めばいいのだし。</p>
<p><strong>啄木鳥</strong>も秀逸でしたよ。啄木鳥といえば<strong>石川啄木</strong>。<br />
ちょうど<strong>啄木の世界</strong>にひたりたかったところです。<br />
<strong>働けど働けど</strong>とつぶやき、じっと手を見たりして。</p>
<p>「啄木鳥さん、うまく缶を開けてくれるかしら」</p>
<p>きみはそう言って心配する。うーん、たしかに<br />
啄木鳥にはちょっと過酷な労働かもしれないね。<br />
<strong>ツツけどツツけど</strong>…缶が開かない！ってことに。</p>
<p>でも、ありがとう。うれしかった！</p>
<p>あれ、タイトルは<b>缶詰め</b>じゃなくて、<b>壜詰め</b>って？<br />
そう、<b>缶</b>から<b>壜、壜から缶</b>へと移動するのだけれど、<br />
壜（びん）って何だと思う？</p>
<p>壜はスタジオ、ガラス張りの<b>収録ブース</b>のこと。</p>
<p>先日、ある<b>ラジオ番組</b>にゲストとして呼んでいただいた。<br />
高層ビルの最上階、展望フロアにある<b>オープンスタジオ</b>。<br />
ガラス越しに大勢の視線。僕は溶けてしまいそうだった。</p>
<p><b>美人パーソナリティ</b>からいろんな質問を投げかけられた。<br />
僕には、<b>エキセントリックな応答</b>をしてしまう癖がある。<br />
照れ隠しで、つい<b>奇を衒った受け答え</b>をしてしまうのだ。</p>
<p><b>反省と自戒</b>を込めて、ここにいくつか再現してみよう。</p>
<p>Q.<br />
<strong>なぜ、声のお仕事を？</strong><br />
A.<br />
いろいろな人から「なぜ声の仕事をしないのか？」<br />
そう言われて「ああ、そうなのか」って。<br />
Q.<br />
<strong>必ず持ち歩いているもの</strong><br />
A.<br />
片手にピストル、こころに花束。<br />
Q.<br />
<strong>語り人さんのマイブームは？</strong><br />
A.<br />
ブームというのはいきなり盛り上がって、<br />
いつのまにかフェイドアウトしている現象のこと。<br />
僕にその傾向はないし、その言葉を好きではない。<br />
Q.<br />
<strong>朝型か夜型か</strong><br />
A.<br />
求められればいつなんどきでも対応できるように<br />
日々鍛錬しているし、勝負パンツも常備している。<br />
Q.<br />
<strong>声優になりたい人にひとこと</strong><br />
A.<br />
あきらめない才能も必要だけど、あきらめる勇気、<br />
素早く方向転換する潔さ、見極めのよさも大切だ。<br />
Q.<br />
<strong>お仕事の告知をどうぞ</strong><br />
A.<br />
ひそやかにやっていますので、とくにありません。<br />
「あっ、この声はもしかして！」それで結構です。<br />
Q.<br />
<strong>「ユアボイス・マイボイス」も人気です</strong><br />
A.<br />
プロでも食べていける人は３％にすぎない世界。<br />
そんな声業界の厳しい現実を突き付けています。<br />
Q.<br />
<strong>そんな話はなかったと思いますが</strong><br />
A.<br />
そうでしたか。では次はそれを書きましょう。<br />
すみずみまで読んできてくれて、ありがとう。<br />
Q.<br />
<strong>語り人さんはその３％のおひとりですね</strong><br />
A.<br />
そうでなければ、やっている意味がない。<br />
趣味や道楽でやってるわけじゃないから。<br />
Q.<br />
<strong>ラブストーリーがステキです</strong><br />
A.<br />
だったら、恋愛だけしていればいい。<br />
Q.<br />
<strong>語り人さん、わたしのことキライですか？</strong><br />
A.<br />
まさか。あなたの声をはじめて聴いたときから、<br />
むしろ好きにならないように必死で頑張ってる。<br />
Q.<br />
<strong>（笑）茂森愛由美ちゃんに頑張ったみたいに？</strong><br />
A.<br />
じゃあ、頑張るのはもうやめましょうか。<br />
Q.<br />
<strong>頑張って耐えてるところが魅力なのかも</strong><br />
A.<br />
<span style="color: #000000;">我慢は美学といえば聞こえはいいけど、</span><br />
ストイシズムはたんなる自己満足です。<br />
Q.<br />
<strong>ええかっこしいのやせ我慢？</strong><br />
A.<br />
あなたのモデルの仕事もそうでしょ。ごめん。<br />
負けそうなので、論点をずらしちゃいました。<br />
Q.<br />
<strong>他にも用意した質問があるんですけど…</strong><br />
A.<br />
たとえば？<br />
Q.<br />
<strong>声の仕事をやってなかったら何をしてた？</strong><br />
A.<br />
それから？<br />
Q.<br />
<strong>今後の目標は？　理想の未来像は？</strong><br />
A.<br />
訊かないの？<br />
Q.<br />
<strong>こんな紋切り型の質問は、嫌いですよね<br />
</strong>A.<br />
あなたが本当に知りたいことを訊いてみて。<br />
Q.<br />
<strong>じゃあ、このあと、収録後のご予定は？</strong><br />
A.<br />
たぶん、あなたと一杯やってると思う（笑）。</p>
<p>さっきの質問も、ついでだから答えちゃうね。<br />
語り人じゃなかったら「歌い人」になってた。<br />
今後の目標は「歌を作る」こと。どうかな？<br />
Q.<br />
<strong>ステキ！<br />
</strong>A.<br />
理想の未来像は、たぶんチェロを弾いている。<br />
愛読書は<b>プルーストの「失われた時を求めて」<br />
</b>傍らには愛するひと。ぼくが朗読してあげる。<br />
Q.<br />
<strong>ずっと聴いてたい！</strong></p>
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<p>Q.<br />
<strong>では最後に、語り人さんのリクエスト曲を</strong><br />
A.<br />
1970年の曲。全世界で１億枚のレコードセールスを<br />
記録した永遠のベストソング。<b>エルトン・ジョンの<br />
「僕の歌は君の歌」</b>。（原題は「Your Song」）<br />
Q.<br />
<strong>「Your Song」、わたしも大好き！</strong><br />
A.<br />
僕の贈り物は、僕が作ったこの歌。君にあげよう。<br />
Q.<br />
<strong>英語で言って</strong><br />
A.<br />
My gift is my song and this one&#8217;s for you.<br />
「Your Song」</p>
<p>そう言って僕は、みずから<b>曲のキュー出し</b>をした。<br />
ゲストの身でありながら<b>パーソナリティ</b>みたいに。</p>
<p>モデルとしても活躍する<b>シンガーソングライター</b>の<br />
Kさん。ごめんね。斜に構えた受け答えばかりして。<br />
オーディエンスにジロジロ見られて緊張したのかも。</p>
<p>でも<b>刺激的でワクワクした</b>とあなたは言ってくれた。</p>
<p><b>壜の外</b>はもっと刺激的で楽しかったね！　僕たちは<br />
息を吹き返した啄木鳥ようにいっぱいお喋りをした。<br />
<b>このトークをラジオでやるべきだった</b>と大笑いした。</p>
<p>ドリンクがビールからワインに変わったところで、<br />
料理の皿が焼き鳥からチーズに変わったところで、<br />
僕たちのお喋りも、落ち着いたトーンに変わった。</p>
<p>「語り人さんに、今日はいっぱい教わりました」<br />
「間違いなくあなたの<b>ファンの怒りを買った</b>ね」<br />
「そんなことない。さすが<b>ボイスのプロ</b>だって」</p>
<p>「あなたは<b>歌ボイスのプロ</b>でしょ。しゃべりは」<br />
「素人丸出し。<b>表面的で紋切り型の質問</b>ばかり」<br />
「場合によるよ。そのほうが平和だったりする」</p>
<p>「<b>決め台詞と曲出しコメントはクールに決める</b>」<br />
「ゲストに取られないよう<b>クールにカッコよく</b>」</p>
<p>「それから、<b>歌うように語り、語るように歌う</b>」<br />
「<b>語り人</b>と<b>歌い人</b>の合体だ。あなたならできる」<br />
「ステキ！私今日こればっか。ほんと素人だわ」</p>
<p>「そんなあなたは<b>無敵に素敵</b>」<br />
「その<b>決め台詞</b>で歌を書いて」<br />
「うん。<b>僕の歌は君の歌</b>だよ」<br />
「うれしい。楽しみにしてる」</p>
<p>別れ際、僕たちは<b>同士のような熱いハグ</b>を交わした。<br />
また会う約束をして。次は君が僕の壜にやってくる。</p>
<p>壜詰めの分際である僕たちがしてはいけないこと、<br />
それは<b>「身も蓋もない」ストーリー</b>を語ることだ。</p>
<p>もしもそこに<b>愛という身</b>が詰まっていなければ、<br />
<b>救いという蓋</b>がなければ、語る意味などない。<br />
生きてる意味もない。まったくね。</p>
<p>だから、そうだよKさん。<br />
<b>歌うように語ろう。語るように歌おう。</b></p>
<p><b>何を語るかなんて問題じゃない。<br />
</b><b>どんな声で語るか。</b>それが重要。</p>
<p>あなたの声＆ぼくの声で<br />
<b>ユアボイス＆マイボイス</b></p>
<p>タイトルに結びつくうまいオチがついたところで<br />
そろそろまとめましょう。<b>ラジオの話</b>にちなんで、<br />
<b>ラジオパーソナリティ風</b>に。</p>
<p>えー、語り人の<b>缶詰め＆壜詰め生活</b>は、<br />
今のところ無期限でつづくでしょう。</p>
<p>引き続きあなたの<b>缶切り</b>と<b>栓抜き</b>を、<br />
<b>啄木鳥</b>と<b>ドラえもん</b>を受け付けます。</p>
<p><b>お便り</b>もくださいね。<b>勝負パンツ</b>は<br />
大丈夫。今のところ間に合ってます。</p>
<p>陣中見舞いに訪ねて行っていいかって？<br />
<b>勝負声</b>と<b>勝負笑顔</b>を持っていらっしゃい。</p>
<p>ビールとワイン、焼き鳥とチーズを用意して<br />
待ってます。壜詰めレシピも考えておきます。</p>
<p>お別れの時間がきたようです。<br />
<b>壜から缶に移動</b>しなければなりません。</p>
<p>もうすぐじめじめした季節がやってきます。<br />
<b>あなたが笑顔を絶やさないでいられるよう</b><b> </b><b><br />
</b><b>もともとの魅力的なあなたでいられるよう</b></p>
<p>語り人が<b>魔法</b>をかけて差し上げます。</p>
<p><b>ゆあん　ゆよん　ゆやゆよん<br />
ゆあん　ゆよん　ゆやゆよん</b></p>
<p>それでは、刺激的で楽しい週末を。<br />
お相手は、あなたの語り人でした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<div class="point">
<h3><span>今日のボイスメモ、あるいは、声にまつわるささやかな教訓</span></h3>
<ol>
<li>質問は<span style="color: #ff6600;"><b>相手が聞かれてうれしいこと</b></span>、つまり<span style="color: #ff6600;"><b>相手が聞かれたがっていること</b></span>から始めよう。まずは<span style="color: #ff6600;"><b>相手の心をほぐし、舌を滑らかにしてあげる</b></span>こと。</li>
<li><b></b><span style="color: #ff6600;"><b>立ち入った質問</b></span>は、相手の反応を見ながら慎重に少しずつ掘り下げていく。</li>
<li>質問をするときは<span style="color: #ff6600;"><b>フランクにフレンドリーに</b></span>。ただし<span style="color: #ff6600;"><b>礼儀正しく</b></span>ね。</li>
<li>質問の目的は<span style="color: #ff6600;"><b>相手の魅力を引き出してあげる</b></span>こと。ときに<span style="color: #ff6600;"><b>本人も自覚していない魅力、隠れた魅力</b></span>までも。</li>
<li>僕たちはもっと<span style="color: #ff6600;"><b>質問上手</b>、<b>聞き上手</b></span>であるべきだ。質問は相手への<span style="color: #ff6600;"><b>愛情表現</b></span>だ。</li>
<li><b></b>「今日の名言」はこれ。<span style="color: #ff6600;"><b>何を語るか</b></span>なんて問題じゃない。<span style="color: #ff6600;"><b>どんな声で語るか。歌うように語ろう。語るように歌おう。</b></span></li>
<li>「今日の名言」をもうひとつ。もしもそこに<span style="color: #ff6600;"><b>愛という身</b></span>が詰まっていなければ、<span style="color: #ff6600;"><b>救いという蓋</b></span>がなければ、<span style="color: #ff6600;"><b>語る意味</b></span>などない。<span style="color: #ff6600;"><b>生きてる意味</b></span>もない。</li>
</ol>
</div>
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		</item>
		<item>
		<title>第3話7章　一流の女性たち</title>
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		<pubDate>Mon, 06 Oct 2014 08:19:27 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[kataribito]]></dc:creator>
				<category><![CDATA[第3話　ボイスアクター編②　一流の証明]]></category>
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		<description><![CDATA[そのとき突然、一柳が振り向いたので目が合ってしまった。一柳は少し驚いた表情を見せたが、横にいる茂森愛由美の存在に気づくと、さらに驚いた顔をした。 「おやおや」と一柳は言った。 「おやおや」と負けずに僕も返した。 （6章「 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>そのとき突然、一柳が振り向いたので目が合ってしまった。一柳は少し驚いた表情を見せたが、横にいる茂森愛由美の存在に気づくと、さらに驚いた顔をした。<br />
「おやおや」と一柳は言った。<br />
「おやおや」と負けずに僕も返した。<span id="more-286"></span></p>
<p>（6章「<a href="http://kataribito.net/03/03-6/">一流の選択</a>」のつづき）</p>
<p>「語り人さん直々のお出迎え、まことに痛み入ります。しかも目の覚めるような麗人もご一緒とは、なんとも光栄の至りです」</p>
<p>驚いたときいつもそうするように、一柳は慇懃な態度でおどけて言った。</p>
<p>「何をおっしゃる。<b>赤坂・汐留近辺</b>をワーキングスペースとする貴君を<b>横浜</b>くんだりまで呼びつけたんだ。このくらいの歓迎は当然だ」</p>
<p>そう言って僕も応戦した。「しかも、やんごとない同伴者もおいでとは、貴君も隅におけない。ぜひご紹介賜りたい」</p>
<p>「あーはっはっはー！」一柳は得意のごまかし笑いをした。<br />
「あーはっはっはー！」僕は苦手のごまかし笑いをした。</p>
<p>「いつもそうやって、ふたりで遊んでるんですね」</p>
<p>一柳の連れの女性が口を開いた。<b>人に命令や指示を出すことに慣れている声と物言い</b>だ。</p>
<p>「あ、失礼。私、<b>三条玲子</b>と申します。三つの条件の三条に、王ヘンの玲子です。今日はお仕事の現場にのこのこついてきてすみません。私が一柳さんにお願いしたんです。語り人さんにぜひお会いしたいと」</p>
<p>「は？　僕に、ですか？」僕は素っ頓狂な声を上げたはずだ。<br />
「ええ、そうです。一柳さんの話に一番多く登場するのが語り人さんなんです。彼はあなたのことになると、とてもうれしそうにイキイキ話すので、どうしてもお会いしたくなりました」</p>
<p>「一柳をもっとよく知るために、ですか？」と僕は訊いてみた。<br />
「失礼ながら、おっしゃるとおりです」<br />
「なるほど。<b>どんな人物かを知るにはその人の友を見よ</b>、ですね」</p>
<p>「気分を害されたのなら謝ります」<br />
「とんでもない。<b>率直さは一番の美徳だ</b>と僕は考えています。だから遠慮なく、その調子で」僕は笑って言った。「率直さにかけては僕も一柳も相当なものです<span style="color: #000000;">。だから<strong>敵は多く友達は少ない</strong></span>」</p>
<p>「想像どおりの方ですね、語り人さんは。安心しました。それから、たぶん間違いないと思うのですが、そちらのお嬢さんは茂森さんですね」と三条玲子は一柳ではなく、僕と茂森愛由美を見て言った。</p>
<p>一柳が茂森愛由美のことまで彼女に話していたことに、僕は少なからず驚いたが、当の本人はいたって素直にあの<b>シャンパンスマイル</b>で対応した。</p>
<p>「はい。はじめまして。茂森愛由美と申します。一柳さんとは一度お会いしただけですが、語り人先生からいつも聞かされていますので、よく存じ上げております。その意味では三条さんとおなじですね」</p>
<p>茂森愛由美の発言に、三条玲子は初めてにっこり笑って言った。<br />
「本当に素敵な女の子。ふたりの中年男が夢中になるのも無理ないわね」</p>
<p>「いや、おれは違うよ。おれが夢中なのはあなただけだ」<br />
ここでやっと一柳が口を開いたが、三条玲子はその<strong>甘いセリフ</strong>をスルーして意外なことを言った。</p>
<p>「やっぱり、語り人さんは茂森さんの先生になっていたのね。すごい！　一柳さんの<b>予言どおり</b>だわ」</p>
<p>「<b>予言</b>って、一柳、どういうことだ？」僕は一柳に詰め寄った。<br />
「ていうか、あの状況から<b>当然の帰結</b>でしょう」</p>
<p>「あの日のおまえは、三条さんのことで頭がいっぱいだったはずだ。でも結局、何も話してくれなかった。名前だって今はじめて聞いた」<br />
「カチカチ山のメタファから<b>心理分析</b>をして、おれの<b>病状</b>を言い当てたじゃないすか」</p>
<p>「そのくらいわかる。<b>おまえの心は、ただ一人の女性への想いで溢れていた。そしてその女性のために、変わろうとしていた</b>」</p>
<p>「でもあの日<b>あの場所にもう一人、変化を必要としてる人が現れた</b>」</p>
<p>「わたしのこと、ですね？」一柳の言葉に茂森愛由美が敏感に反応した。<br />
「そう。<b>君は語り人さんを求めるはずだし、語り人さんは君をほうっておかないだろう</b>と思った」</p>
<p>「おいおい、だから三条さんのことを打ち明けるのをやめたっていうのか」<br />
「そうっす。しばらくは二人の問題に集中させてあげようと思ったんすよ」<br />
「余計なことを」僕はため息を吐いた。</p>
<p>「お互いが相手を思いやっていたって話ね。まあ、<b>美しい友情</b>だわ」<br />
三条玲子はそう言うと、一柳と僕をそれぞれ睨みつけてからまた言った。</p>
<p>「それはそうと、私たち相当目立ってるわよ。いつまで私と茂森さんをここでさらし者にする気？　<b>夢中になると周りが見えなくなる</b>。本当にお子ちゃまなんだから」</p>
<p>「ごめんなさい」一柳と僕は同時にお子ちゃまらしく謝った。<br />
茂森愛由美がクスクス笑って言った。「先生、あと5分で2時です」</p>
<p>「やばい。一柳、着いたらすぐ<strong>本番</strong>だぞ」<br />
「うーっす」</p>
<p>スタジオに入ると、寺さんが<b>父親みたいな顔をして待ちかまえていた</b>。<br />
「遅いから心配したよ。デートには時間が足りなかっただろうけどさ」</p>
<p>「寺さん、からかわないでくださいよ。一柳と駅でばったり会って、ちょっと立ち話が長話になってしまって…」彼女の父親に言い訳するみたいに僕はしどろもどろになった。</p>
<p>「寺さん、お久しぶりです！」一柳が声をかけた。<br />
「一柳くん、久しぶり！　何年ぶりかな、４～５年は会ってないよね。ちょっとオジサンになったけど、相変わらず二枚目だね」</p>
<p>「寺さんもお元気そうで。相変わらずフィギュア作ってますか。今日は<b>文句なしのモデルがきた</b>って興奮してるんじゃないっすか？」</p>
<p>「一柳くん、なんでわかるの？」<br />
そう言って寺さんは、茂森愛由美をチラリと見て赤面した。それから一柳のうしろにいる三条玲子に目をとめた。</p>
<p>「今日はいったいどんな日よ！　べっぴんさんばっか現れてさ」</p>
<p>「おじゃまします。三条と申します。今日は<strong>一柳さんの付添人</strong>という位置づけでお願いします」</p>
<p>「ああ、<strong>一柳くんの彼女</strong>という位置づけね。お似合いだよ」<br />
寺さんは三条玲子と一柳をかわるがわる見て、納得したように言った。</p>
<p>「あ、それからこれ、一柳さんからお好きだと伺ったので」<br />
そう言って三条玲子は、寺さんに持参したみやげを手渡した。<br />
「麻布十番の有名なケーキ屋のチーズケーキです。私も大好きです」</p>
<p>「知ってる！　知ってるけど、まだ食べたことなかったさ。うれしいなあ。ありがとう！　あとでみんなでいただこうよ。茂森さんも、なんかおいしそうなもの持ってきてくれたんだよ」そう言ってスイーツ大好き寺さんは、女の子みたいに喜んだ。</p>
<p>知らなかった。こうした気遣いがさりげなくできる茂森愛由美が頼もしくも誇らしく思えた。もちろん三条玲子もさすがだ。</p>
<p>早くスイーツにありつきたい寺さんが号令をかけた。<br />
「準備はできてるよ。いつでもOK」</p>
<p>「さあ一柳、いくぞ。よろしく頼む」<br />
「ほーい。よろしくっす」</p>
<p>ふたりでブースに入り、<b>分厚い台本</b>をページめくりしやすいように整理していると、茂森愛由美がお盆に乗せてコーヒーを運んできた。</p>
<p>「ありがとう、ちょうど飲みたかった」僕は彼女の気遣いに感謝した。<br />
「さすが茂森さん、相変わらずのグッドタイミング」一柳がウインクした。</p>
<p>「おふたりの掛け合いをこうしてまた見ることができるなんて、わたし、うれしいです。ドキドキしています。しっかり勉強させていただきます！」<br />
茂森愛由美の素直さに僕たちは笑顔で応えた。</p>
<p>さあ、いよいよこの瞬間が訪れた。<br />
<b>ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットの対談</b>。</p>
<p>僕がゲイツをやり、一柳がバフェットをやり、<br />
そして茂森愛由美が女子大生をやる。</p>
<p>さまざまなシーンが頭の中を去来した。</p>
<p><b>茂森愛由美にまっさきに知らせたときのこと。<br />
バフェットの声を一柳に依頼したときのこと。<br />
翻訳に頭を悩ませながらも楽しく充実した日々のこと。<br />
茂森愛由美に何度も読み直しを命じた濃密なレッスン。</b></p>
<p>寺さんの<b>キュー出し</b>が耳に飛び込んできた。<br />
「それじゃあ、絵を流しまーす。本番、さん、に、いち…」</p>
<p><b>（レコーディング中）</b><b></b></p>
<p>「ストップ！　ちょっとごめん、止めてください。寺さん、すみません」</p>
<p>噛んだわけでも間違ったわけでも、<b>リップシンク</b>がずれたわけでもない。<br />
それは完璧だった。さすが一柳だ。しっかり合わせてきている。</p>
<p>それでも僕は止めた。<b>このままではだめだと思った</b>からだ。</p>
<p>一柳はダミ声を作ってバフェットを巧みに演じていた。<br />
でも違う。それはバフェットじゃない。僕は一柳に言った。</p>
<p>「一柳、なんか違うよね」<br />
「うん。オレもそう感じてるっす」<br />
「バフェットはこのとき何歳だ？」<br />
「あっ…」</p>
<p>「この対談当時、バフェットは70歳だ。もちろん年齢のわりに<b>旺盛な生命力を持った怪物</b>だ。でも声をよく聴いてみろ。単なるダミ声じゃない。独得の＂<b>枯れ感</b>＂がある」</p>
<p>「<b>枯れ</b>」とは<b>人間的な深み</b>のことだ。酸いも甘いも噛み分けた<b>円熟の極み</b>にある人。それが「<b>オラクル（預言者）</b>」と呼ばれるウォーレン・バフェットなのだ。その枯れが、あたりまえだけど一柳にはない。</p>
<p>「枯れが出ないとバフェットにならないぞ。わかるな」<br />
「わかります。今のオレじゃとても無理だってことっす。<br />
でも無理を承知で、少しでも枯れてみせましょう」</p>
<p>「もうひとつ。これが<b>一番大事なこと</b>だ」僕は笑って言った。<br />
「映像との呼吸は合ってる。でも<b>おれたちの呼吸が合っていない</b>。<br />
<b>お互いが一人プレイしている</b>。いつものおれたちでいこうぜ」</p>
<p>「了解っす！」</p>
<p>「寺さん、すみません。もう一度、頭からお願いします」<br />
「はいよ！」</p>
<p><b>（レコーディング中）</b><b></b></p>
<p>「<b>はい、</b><b>OK</b><b>。いただきー！</b>」寺さんの威勢のいい声。<br />
「少し休むかい。それとも続けていくかい。学生さんのセリフ」</p>
<p>「続けてお願いします。さあ愛由美ちゃん、出番だ！」</p>
<p>防音ガラスの向こうのMAルームのソファに、三条玲子と並んで座って祈るように胸の前で手を組み、僕と一柳の吹き替えを見守っていた茂森愛由美は「はい！」と返事をして立ち上がった。</p>
<p><b>（レコーディング中）</b></p>
<p>学生のセリフはあまり流暢になってはいけない。現役女子大生の茂森愛由美は、そのへんのさじ加減を心得ていた。さっきの<b>アナウンンサーしゃべり</b>はどこにもなく、<b>等身大のリアルな女子大生</b>を演じた。</p>
<p>僕と一柳の学生役はどうだったか。年齢的にちょっとキツイんじゃないの？　そう思われるかもしれないが、そんなことはない。<b><b>僕たちはプロだ。</b>いろんな声を持っている</b>。</p>
<p>声だけじゃない。読者もすでにおわかりのように、僕たちはいまだ<b>悩める青二才</b>だ。三条玲子から＂<b>お子ちゃま</b>＂と断じられるほどの<b>未熟者</b>なのだ。その意味で、ゲイツやバフェットといった超大物よりよほど<strong>身の丈に合っていた</strong>かもしれない。</p>
<p>「<b>はーい。オール</b><b>OK</b><b>。ぜーんぶ、いただきましたー！</b>」<br />
「ありがとうございます。寺さんもお疲れさまでした！」</p>
<p>すべての収録が終わり、僕たち５人はテーブルを囲んで談笑した。寺さんお待ちかねの<b>スイーツタイム</b>だ。</p>
<p>三条玲子は「みなさんは休んでいてください。私は何もしていないから」と、コーヒーの用意をしたり皿を並べたりケーキを切り分けたりと、甲斐甲斐しく立ち働いた。茂森愛由美も加勢した。</p>
<p>「寺さん、血糖値はだいじょうぶなんですか」と僕が訊くと、寺さんは「これは<strong>別腹</strong>さ」と意味不明なことを言って、<b>麻布十番名物のチーズケーキ</b>と、茂森愛由美が買ってきた<b>近所で評判のケーキ屋さんのショートケーキ</b>に貪りついた。</p>
<p>「そうそう、一柳くんも三条さんも聴いてなかったね。午前中にやった、語り人くんと茂森さんの吹き替え。もう<b>神がかってる</b>っていうかさ、<b>鳥肌もん</b>だよ」そう言いながら寺さんは、ロビーにある大きなスクリーンに再生した。</p>
<p>「すっごい。何だか<b>愛を感じる</b>わね。ふたりの<b>師弟愛</b>？　それとも…」<br />
三条玲子が映像を見ながらポツンと言った。茂森愛由美は赤くなって俯いた。</p>
<p>「今日の吹き替え、<b>だれが一番ハマってたか</b>って、やっぱ茂森さんだよね。びっくりした。語り人さん、短期間でよくここまで仕上げたっすね」</p>
<p>「彼女の<b>才能と努力と素直さの勝利</b>だ」一柳の感想に僕はひと言で答えた。</p>
<p>「<b>台本も見ないで一度も噛まずにぴったりアテちゃう</b>んだもん。おれもびっくりしたさ。今の女子大生の役なんか、またガラっと変わってさ。語り人くんと一柳くんと同じで、<b>憑依体質</b>なんだね。<b>天才肌</b>というかさ」寺さんがあらためて茂森愛由美を大絶賛した。</p>
<p>「いや、オレなんかダメっすよ。ぜんぜん<b>バフッェトじゃなかった</b>し、<b>バフェットになれなかった</b>。語り人さん、ほんとすみません」</p>
<p>そう言ってがっくりうなだれる一柳に、同じくがっくりうなだれて僕は言った。</p>
<p>「おまえに偉そうにダメ出ししちゃったけど、おれだって同じだ。<b>ゲイツは今日、最後までおれの中に入ってきてくれなかった</b>。愛由美ちゃんは気づいたはずだ」</p>
<p>「たしかに今日の先生は練習のときと違っていました。でもわたし、ずっと映像の顏だけを見ていたのですけど、<b>本当にゲイツがしゃべってる</b>って錯覚するほどでした。それは一柳さんのバフェットも同じです。やっぱりすごいです」</p>
<p>「私なんかが口を挟むことじゃないけど、茂森さんと同意見ね」三条玲子が言った。「途中から吹き替えということを忘れて、とにかくふたりの話に引き込まれたわ。<b>ゲイツもバフェットも、ふつうに日本語をしゃべるんだ</b>って、そんな感じ。それは茂森さんもそうよ」</p>
<p><b>二人の心優しき女性</b>はそう言ってフォローしてくれたが、一柳も僕も自分が一番よくわかっていた。</p>
<p>一柳は<b>技巧派</b>だ。確かにうまい。だがやっぱり<b>ミスキャスト</b>だった。彼はいま<b>恋する少年</b>だ。もっと年配の<b>「枯れた演技」</b>が難なくできる声優を、起用するべきだったのだ。</p>
<p>そして僕はといえば、当時のゲイツと同年代だし、彼のパーソナリティを表現することは特別むずかしくはない。僕は<b>ゲイツを完全に自分のものにしていた</b>はずだ。でも本番で<b>役に入りきれなかった</b>。</p>
<p>理由はわかっている。本番前にいろいろありすぎて、僕は明らかに<b>集中力を欠いていた</b>。</p>
<p>午前中の茂森愛由美との収録で<b>燃え尽きてしまった</b>のかもしれない。そのあとの横浜散歩で<b>心が揺れてしまった</b>のかもしれない。そして、強烈な個性を放つ三条玲子の出現に<b>うろたえてしまった</b>のかもしれない。</p>
<p>言い訳はよそう。僕も一柳も<b>腑抜け</b>になってしまったのだ。<b>心が乱れて演技に集中できない</b>まま、それを<b>口先の</b><b>テクニックで補おうとした</b>。それが<b>「役を生きる」</b>ことができなかった現因だ。</p>
<p>「まあ、そんなに落ち込まないで。語り人くんも一柳くんも、一度も<b>合わせ稽古</b>してないんだろう？　それであれだけ呼吸が合ってんだもん。さすがだよ。<b>これは二人にしかできなかった</b>さ」今度は寺さんがフォローしてくれた。</p>
<p>「それです。合わせ稽古もしないで、<b>ぶっつけ本番</b>でこんな大物の吹き替えに挑むこと自体、大きな間違いだったんす。オレ、傲慢だったっす」</p>
<p>「<b>いや、演出家としてのおれの責任だ</b>」</p>
<p>そう言って僕たちがおのおの<b>自責の念</b>に打ちひしがれていると、三条玲子が急に立ち上がった。</p>
<p>「<b>いい大人の男が二人して、いつまでぐじぐじ言ってるの！　いいかげんになさい！</b>」</p>
<p>三条玲子の声がスタジオ中に響き渡り、場の空気が一瞬にして凍りついた。</p>
<p>「あーはっはっはー！」一柳は再び盛大な<b>ごまかし笑い</b>をした。<br />
「あーはっはっはー！」僕もこのときばかりは一柳にならった。</p>
<p>「あーはっはっはー！」<span style="color: #000000;">なぜか寺さんまで笑い出した。</span><br />
「<b>すんげえ！　三条さんに一本、だね！</b>」</p>
<p>「あーはっはっはー！」<span style="color: #000000;">最後は５人全員の<b>本気笑い</b>。</span><br />
そう、<b>笑いは伝染する</b>のだ。</p>
<p>このとき僕は、<b>一柳が三条玲子に惚れた理由</b>がはっきりわかった。</p>
<p>大好きなケーキをお腹いっぱい食べてご満悦の寺さんが、急にモジモジしはじめた。そろそろ<b>あの件を切り出したい</b>のだな、と僕は思った。</p>
<p>「ところで語り人くんさあ…」みんなが寺さんに注目した。<br />
「あのさあ、茂森さんに訊いてもらえないかな…」</p>
<p>「ああ寺さん、茂森さんに<b>フィギュアのモデル</b>になってもらいたいんでしょ」一柳が寺さんの切なる願いを単刀直入に口にしてしまった。</p>
<p>僕は茂森愛由美に、そして何の話かさっぱりわからないだろう三条玲子に、寺さんの<b>「美少女フィギュア」</b>の栄光とその歴史について説明した。（なんでおれがプレゼンしなきゃならないんだ？）と頭の片隅で思いながら。</p>
<p>寺さんの<b>聖域</b>である<b>「フィギュアコーナー」</b>の上座にまします<b>30</b><b>体の美少女フィギュア</b>を見て、三条玲子が驚嘆の声を上げた。</p>
<p>「すっごいリアル！　<b>生きて呼吸してる</b>みたい。もはや<b>人形の域を超えてる</b>わね」</p>
<p>「<b>ピグマリオン</b>が自ら彫った<b>彫像に恋をして命を吹き込んだ</b>ように、あるいは<b>仏師が仏像に霊験を封じ込める</b>ように、寺さんは<b>自分が作ったフィギュアに、人格と感情と心を付与する</b>能力を持ってるんだよ」と僕は言った。</p>
<p>「へえ、<b>人格と感情と心</b>ねえ。たしかに感じるわ。どれも<b>上っ面だけの典型化された美少女</b>じゃないもの。ところでピグマリオンって<b>ギリシャ神話</b>よね。どんなお話だっけ」三条玲子は俄然、興味を持ったようだ。</p>
<p>「ピグマリオンは<b>ギリシャ神話に登場するキプロス王</b>の若き日の名前だよ」<br />
一柳が解説を引き受けてくれるらしい。</p>
<p>「一柳、<b>ナレーション風</b>に頼む」と僕は注文をつけた。<br />
「了解。やってみるっす」と一柳は応え、鼻で息を吸って丹田に溜め込んでから静かに語り始めた。</p>
<p>「あることがあって<strong>女性不信</strong>に陥り、ずっと独身を通してきたピグマリオンは、<b>彫刻の名手</b>として知られていた。あるとき、<b>美と愛の神ヴィーナス</b>の姿をモチーフにして、自分の<b>理想の女性像</b>を彫った。</p>
<p>それはあまりに素晴らしい出来栄えで、<b>ピグマリオンはその像に恋をしてしまう</b>。そして、<b>この乙女を妻に迎えたいと強く願う</b>ようになる。毎日毎日、像に話しかけ、寝食を忘れて磨き上げた。</p>
<p>これを見た女神ヴィーナスは、ピグマリオンの深い想いに心を打たれ願いを聞き入れる。<b>彫像は生きた娘になり、そうして二人は結ばれた</b>のである」</p>
<p>一柳が大きく息を吐き、エンディングを迎えた。<br />
「はい、OK！　いただき！」と僕は言った。<br />
「すごい、すごいです！」と茂森愛由美は手をたたいて喜んだ。</p>
<p>「ふつうにピグマリオンのこと教えてくれればいいのに、まったくあなたたちときたら、どうしていつもそう大袈裟なの！」三条玲子は怒った顔をして憎まれ口を叩いたが、その目は潤んでいた。</p>
<p>そのとき寺さんが唸り声をあげた。寺さんにとってはピグマリオンの話などどうでもいいのだ。「で、あの…語り人くん、フィギュアの件だけど、どうかな…」</p>
<p>「寺さん、もう打ち解けたでしょ。本人に直接、訊いてみればいいじゃないすか」一柳がそう言うと、寺さんは恥かしそうに頭を掻いた。</p>
<p>茂森愛由美も黙ったまま、恥かしそうに俯いている。僕が代弁した。<br />
「寺さん、愛由美ちゃんはね、<b>アイドル</b>とかそういうの苦手なんです」</p>
<p>彼女がフィギュアになってここに陳列されネットに上がれば、間違いなく話題になるだろう。もう３年、寺さんは<b>美少女フィギュア</b>を誕生させていない。そう、マニアたちは寺さんの<b>新人美少女アイドル</b>を待ちわびているのだ。</p>
<p>「いや、アイドルとかそういうのを、おれは作ってるわけじゃないよ。<b>人気投票</b>とか<b>センター</b>とか<b>神セブン</b>とか、そんなことおれには興味ないし、頼んだ覚えもないさ。おれはただ、おれがビビッときた女の子の今の輝きを、そのまま写し取りたいだけなんだ」</p>
<p>わかっている。寺さんに他意はない。もしも寺さんが<b>写真家だったら思わずシャッターを切った</b>だろうし、<b>画家だったら夢中で絵筆を走らせた</b>だろう。それだけのことだ。寺さんはそういう人なのだ。</p>
<p>「<b>作ってください！</b>」</p>
<p>茂森愛由美と僕が、ほぼ同時に口を開いた。驚いて僕たちは顔を見合わせて苦笑した。寺さんと一柳と三条玲子もびっくりして、次の言葉を待った。</p>
<p>「ただし」と僕が言った。「<b>公開はしないでほしい</b>」</p>
<p>「いいよ」と寺さんは迷わず即答した。「<b>おれは<b>作れればいいんだから</b></b>さ。完成したら語り人くんに預ける。それでいいよね？」<br />
「寺さん、すみません」僕は寺さんに頭を下げた。</p>
<p>「ちょっと待ってくださいよ、語り人さん」一柳が口を挟んだ。</p>
<p>「茂森さんは<b>これから声優としてやっていく</b>んでしょ？　だったら寺さんのフィギュアになることは、<b><b>声優としてまたとないチャンス</b></b>というか、<b>大きな宣材</b>になるんすよ。寺さんの<b>美少女フィギュア</b>にはそれだけの力がある。語り人さん、わかってますよね！」</p>
<p>「わかってるよ、そんなこと！」僕はムキになって返したが、一柳は負けじと冷静に状況を分析した。</p>
<p>「アイドルとかそういうのが苦手って、茂森さんは好むと好まざるとにかかわらずその路線でしょう？　そろそろ<b>ジュニアランク</b>に上がるはずっす。そうすると事務所は、彼女をバンバン売り出しますよ。ほうっておくわけがない」</p>
<p>「それって、いわゆる<b>アイドル声優</b>ってこと？」三条玲子が訊いた。</p>
<p>「愛由美ちゃん、みんなに話してもいいかい？」<br />
僕の問いかけに彼女はこくりと頷いた。</p>
<p>「半年前、<b>事務所サイド</b>からすでにその話は出てたんだ。でも彼女はそれを拒否した。<b>自分はそういうことをやりたいんじゃない</b>ってね。そうしたら鼻で笑われたそうだ。<b><b>演技もろくにできないくせにインテリぶるんじゃない</b></b>。<b>きゃあきゃあ言って笑ってりゃいいんだ</b>って」</p>
<p><b>大手声優事務所がアイドル声優として売り出してくれる</b>。どれだけの新人がこのポジションを望んでいるだろう。席はほんのわずか。そのわずかな特等席を、茂森愛由美は自らの足で蹴ったのだ。</p>
<p>しかし<strong>業界の名誉</strong>のために言っておく。茂森愛由美に対する<b>事務所のマネジメント方針</b>は決して間違ってはいない。客観的にはしごく当然の判断だろう。彼女の主観がそれを許さなかっただけだ。</p>
<p>「ますます気に入ったわ。私も愛由美ちゃんと呼んでいいかしら？」<br />
「おれも、そろそろいいかな？」</p>
<p>三条玲子と一柳がそう言うと、茂森愛由美はにっこり笑って返した。<br />
「はい、よろこんで。わたしも、玲子さんと呼ばせていただいていいですか？」</p>
<p>「おれも、そろそろいいかな？」と一柳がまた言った。<br />
そういえば一柳はずっと＂三条さん＂と呼んでいた。<br />
「おまえも<b>間のいいやつ</b>だ」と言って僕は一柳をからかった。</p>
<p>「先生、ありがとうございます。みなさんも、わたしのことで、いろいろ心配しておっしゃってくれて、ほんとわたし、うれしいやらお恥ずかしいやら…。そんなわけで、だからわたし、<b>有無を言わせない実力</b>をつけたくて、語り人先生にレッスンをお願いしたんです」</p>
<p>「アイドル路線じゃない<b>正統派の声優</b>としてスタートするために、だね？」</p>
<p>一柳はそう言ったあと、何かに気づいたようにハッとして僕の顏を見た。<br />
「まさか、語り人さん…」</p>
<p>どうやら一柳は僕の計画に気づいたようだ。<br />
「その話はあとにしよう」と僕は言った。</p>
<p>「さあ、記念撮影だよ。はい、みんなもっと寄って、寄って！」<br />
寺さんが４人を撮って、それから僕と茂森愛由美、一柳と三条玲子のツーショットを撮った。</p>
<p>「寺さん、本当は愛由美ちゃんをピンで撮りたいんでしょう？　回りくどいことしなくていいっすよ」と一柳が言うと、みんなが笑った。</p>
<p>「寺田さん、どうぞ撮ってください」と茂森愛由美が笑顔で言った。<br />
「ありがとう」と寺さんは言い訳するように言った。「いや、朝からずっと見てるから、茂森さんのあらゆる表情は頭に焼き付けてるんだけどさ、いちおう念のためにね」</p>
<p>「さあ、そろそろ行かないと、山田店長が待ってる。そうだ愛由美ちゃん、ひとり増えるって連絡入れといてくれるかな」写真撮影が終わると僕は言った。</p>
<p>「はい。すでに連絡ずみです」早い。さすが茂森愛由美だ。<br />
「玲子さん、このあとも付き合ってくれますね？」</p>
<p>「もちろんよ。愛由美ちゃんのこともっと聞きたいし、一柳さんと語り人さんの<b>事情聴取</b>も残ってるわ」と三条玲子はサラリと応えた。</p>
<p>「じ、事情聴取って！」一柳と僕は同時に悲鳴を上げた。</p>
<p>「ところで語り人さん、山田店長って、まさかこれから<b>四谷三丁目の焼鳥屋</b>に行くって、そういう話じゃないっすよね？」一柳が疑問を呈した。</p>
<p>「そういう話だよ」だからどうした？という感じで僕は言った。<br />
「えっ、<b>寿司でも焼肉でもオレの好きなもの何でも食っていい</b>って、そう言ったじゃないすか！」</p>
<p>「山田店長が愛由美ちゃんの<b>デビュー祝い</b>をしてくれる。個室をキープして待ってくれているんだ」</p>
<p>「じゃあ寿司は？　焼肉は？」一柳が不満の声を上げた。<br />
「いやなら、おまえはこなくていい」僕は一柳を見捨てた。</p>
<p>茂森愛由美が声を上げて笑いながら言った。<br />
「店長がお寿司を用意してくれるそうです」<br />
「ヤッホー！　寿司だ、寿司だ、寿司だぁ！」一柳ははしゃいだ。</p>
<p>玲子さんが軽蔑の目を向けると、一柳はおとなしくなった。</p>
<p>寺さんに挨拶をしてスタジオを出ると、日はすでに落ちていた。<br />
四谷三丁目に行くため、JR桜木町駅を超えて<b>地下鉄みなとみらい駅</b>に向かった。</p>
<p>昼間は上から見おろした<b>横浜コスモワールドの大観覧車</b>を、地上から見上げるポイントに僕たちは来ていた。そのとき咄嗟に僕は思いついた。</p>
<p>「なあ、みんな。<b>観覧車に乗らないか</b>」<br />
「わあ、語り人さん、グッドアイデアっす！　乗ります、乗ります！」</p>
<p>一柳が<b>歓声</b>を上げた。<br />
三条玲子が<b>呆れ顔</b>で一柳を見た。<br />
茂森愛由美が<b>潤んだ瞳</b>で僕を見た。</p>
<p>平日の夕方６時前で、なんとか待たずに乗れそうだった。<br />
定員８名のゴンドラ。僕は4人一緒に乗るものだと思っていたが、一柳が猛反対した。</p>
<p>「語り人さん、何を無粋なこと言ってるんすか。これは<b>想い合う二人のための乗り物</b>っすよ」<br />
「じゃあ、あななたち二人で乗ればいいわ」と三条玲子は一柳と僕に向かって言った。</p>
<p>「いやだなあ玲子さんたら、心にもないことを言わないで」<br />
そう言って一柳は三条玲子の手を取って、先にさっさと乗り込んだ。<br />
「<b>グッドラック！</b>」と言って僕と茂森愛由美にウインクを決めながら。</p>
<p>二人を乗せたゴンドラを見送って、次のゴンドラに茂森愛由美と乗り込むやいなや、目に閃光が走った。60体あるゴンドラおよび支柱が一斉に<b>ライトアップ</b>されたのだ。</p>
<p>横浜の町を鮮やかに彩るこの<b>日本最大級の観覧車「コスモロック</b><b>21</b><b>」</b>は、季節によりライトの色が変わる。<b>春はグリーン、夏はブルー、冬はピンク、</b>そして<b>秋はゴールド</b>だ。</p>
<p>全身が<b>煌めく金色</b>に包まれた。</p>
<p>茂森愛由美が甘えるように身体を寄せてきた。<br />
「先生、わたし、うれしい。また、<b>願いをかなえてくれて</b>」<br />
「じゃあ、<b>僕の願いもかなえて</b><b>くれるかな</b>」と僕は言った。</p>
<p>茂森愛由美があの目で僕をまっすぐ見据えて言った。<br />
「先生の願い？　わたし、何でもききます。おっしゃるとおりに」</p>
<p><b>金色のライト</b>のせいか、いつも以上に輝きを放つ彼女の目が眩しくて、<br />
その目が閉じられる前に、僕は言い訳をするように顔をそらし隣のゴンドラに視線を移した。</p>
<p>一柳が三条玲子の肩を抱き、<b>ふたり並んで同じ方向を見ていた</b>。<br />
<b>ベイブリッジ</b>の方向だ。</p>
<p>「<b>愛の架け橋</b>か…。よかったな、一柳」と僕は呟いた。</p>
<p>ゴンドラが半周して頂上に達した。地上112.5メートル。<br />
観覧車の全長としては世界で５番目だと聞いたことがある。</p>
<p><b>宝石を散りばめたような美しさ</b>といわれる<b>横浜の夜景</b>が<br />
視界いっぱいに広がった。</p>
<p>言わなければ。今だ。今、言うんだ！<br />
僕は大きく息を吸った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（次回、最終章につづく）</p>
<p>&nbsp;</p>
<div class="point">
<h3><span>今日のボイスメモ、あるいは、声にまつわるささやかな教訓</span></h3>
<ol>
<li>「親の顔が見たい」とよく言うが、その人を知りたければ友達の顏を見るほうが早いだろう。<span style="color: #ff6600;"><b>親もパートナーも恋人も知らない秘密</b></span>を友達が知っていたりする。</li>
<li>「率直さ」とは<span style="color: #ff6600;"><b>誰に対しても言動や態度や意見が変わらない</b></span>ことだ。<span style="color: #ff6600;"><b>ぶれない同じ自分でいる</b></span>こと。人によって自分を使い分けるのは役者の仕事だ。</li>
<li>誰かのために変わろうとすること。自分のために変わろうとすること。<br />
きっかけや理由は何でもいい。<span style="color: #ff6600;"><b>チェンジ（</b><b>CHANGE）のGをCに変えるだけでチャンス（CHANCE）になる</b></span>。</li>
<li>何であれ何かをやり遂げてしまう人は、<span style="color: #ff6600;"><b>素直さと頑固さを併せ持った人</b></span>だ。<span style="color: #ff6600;"><b>素直なだけでは流されやすく、頑固なだけでは真実が見えなくなる</b></span>。素直さと頑固さは矛盾しない。共存できるはず。「素直頑固」な人になれ。</li>
<li>人生は多かれ少なかれ人との出会いで決まる。今いる場所で決まる。誰と一緒にいるかで決まる。だったら自分で決めればいい。何処にいたいか。誰といたいか。何をしていたいか。<b><span style="color: #ff6600;">もっとも必要な力は「自ら決める力」</span>だ</b>。</li>
</ol>
</div>
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